コトノハ1周年企画御礼リク[2/21]
「花奈ちゃん?」
大きな身体で私を見下ろす人が困った顔をしている。
うん、困ればいい、私なんてあなたのせいで傷ついてるんだもの。
「オレ、花奈ちゃんを怒らせた心当たりが何も」
すっかりしょげ返った背中が丸くなっていて、かわいそうではあるのだけれど。
私は彼のせいでもう5日も寝不足で、そしてカルシウム不足なのかイライラしている。
もう、いっそのこと全部ぶちまけて「さよなら」してやろうかな、と思うけれど。
好き、なのだ。
好きすぎて、さよならなんかできないのは自分でもわかっている。
けどね?
「ねえ、花奈ちゃん、お願いだから黙ってないで何とか言ってくれないか?」
不安そうに見下ろす彼に何度も首を横に振ったけれど。
「そうでなきゃ、オレどうしたらいいのかわかんないよ」
泣き出しそうなその瞳に根負けして。
事の要因を話し出す。
「見ちゃったの、私」
今の私の顔はきっと般若のようだと思う。
泣き腫らした目はパンパンに腫れて眉間に寄った皺は深く刻まれているだろう。
こんな醜い顔など、勲ちゃんに見られたくなかったな。
「勲ちゃんは、まだ妙ちゃんのことが好きなの?」
「っ、何でそんなこと?!」
「だって見たんだもの、この間の日曜日妙ちゃんと一緒に歩いてたの。楽しそうだったよ?」
「っ」
何か言い掛けて黙りこくってしまった彼は。
最早弁解する気もないようだ。
…ああ、だから言わなければ良かったんだ。
自分の中で消化できるまで会わずに耐えて、許せるようになったら笑ってまた逢えば。
だってこの後に続く言葉が出て来ない。
例えば私に覚悟があるなら。
『どうぞ、妙ちゃんと仲良くね』
なんて微笑んで去って行くか、はたまた。
『さよなら、勲ちゃん。私、二股なんて耐えられないから』
とキッパリ振ってあげるか、どちらか…。
というか、もうこうして認めたような人間が言い訳もしてこないということは、だ。
…つまりは私に知られても何ともなかった、ってことだ。
そうか…。
結局はさよなら、と言うか言われるか、今はそのどちらかなのだろう。
自分で言うのはツライけれど、振られるのはもっとツライ。
気持ちのある側としては。
だから。
「…というわけでして、今まで本当にありがとうございました」
涙が落ちる前に早々に退散しようとした私に。
「違うでしょ!!!」
という怒鳴り声が落ちてくる。
「っ、な」
驚いて勲ちゃんを見上げると。
顔真っ赤にして私を見下ろしていて、その顔はまるで怒ったゴリラのようだったけど。
「どうして、責めないの?!どうでもいいことだから?何で一緒にいたの?とか、聞いてくれるのかと思ったけどそんなのもう興味ないの?!」
「勲ちゃ」
「オレだけなの?花奈ちゃんとさよならしたくないのは」
その言葉の意味を考えながら、一歩近づくと。
「ほんとの気持ち言ってくれるまで、帰したくなんかないよ」
…ほんとの気持ちなんて言っても、あなたは引かないのだろうか、私の心が狭いことを知って。
「あのね、花奈ちゃん」
言い出せない私に向かって差し出されたのは小さな箱に入った…。
「女の子がどんなのが好きかって迷ってたとこにお妙さんが通りかかって…、それで相談してただけなんだ。嘘じゃない」
うん、うん、嘘じゃない。
こんなに私の指にピッタリ、サイズを知っているのはあなただけだもの。
「っ、勲ちゃんッ」
見上げた先で同じように泣いている彼にジャンプして飛びついた。
よろけもせずに抱きとめるこの人になら、いつだってほんとの気持ちを告げていこう。
「…勲ちゃんのバカッ」
大好きの代わりの愛言葉。
よっすー様御題
近藤
ほんとの気持ち言ってくれるまで、帰したくない
← →
目次へ
[2/21]