コトノハ10万打企画御礼リク[14/14]
「何で避ける?!」
休みの日、私の部屋に現れた十四郎さんが部屋の戸を何度も叩きながらそう声をかけてきた。
あまりに大声だったから近所迷惑にならないように、私はそっとドアを開ける。
「避けてなんか」
「避けてるだろうが?電話にも出ねェ、顔も出さねェなんざ」
そう言われて俯いてしまうのは、私が彼を避けていたのが本当のことだからで。
だって…、十四郎さん。
あなたに、さよならを言われることが怖かったからです。
見てしまったから…。
先々週、仕事が残業になってしまった日のこと。
帰り道に見かけたのは、十四郎さんが美しい女の人と親しげに二人で歩いている姿だったから。
「…オレが何かしたのか?」
玄関で私の顔を覗き込んできたその顔には焦りの色が窺えた。
けれど、私の中に生まれた疑心は今や真っ黒になって。
だから。
「十四郎さん…、私…」
もう、あなたについていけない。
その最後の言葉が喉元に詰まってしまって。
唇を噛み締める。
「…別れてェって…言うのか?」
私の顔を見て悟ったのだろう。
ギュッと拳を握って、十四郎さんから目を反らして頷く。
「他に好きな男でも出来たか」
「っ、違います」
そんな風に誤解されるのだけはイヤだった。
好きな人が出来たのは、十四郎さん、あなたでしょう?
「だったら、何で」
その言葉にただ首を横に振るだけの私に聞こえてきたのは呆れ果てたような十四郎さんのため息。
「…愛想尽かしたってんなら、そう言ってくれ」
「そんなんじゃ」
慌てて十四郎さんの顔を見上げれば。
見たこともないような顔をした十四郎さんが。
そっと私に手を伸ばす。
「…オレァ…、別れたくなんかねェんだよ」
伸びてきた手はそっと私の頬を撫でる。
溢れ出た涙を優しく拭うように。
「好きな男が出来た、オレなんかに愛想が尽きた、ってんなら諦めるより他はねェだろうけど。…こんなんじゃ諦めつかねェ」
「っ、だって」
あなたにはあんなに美しい人がいるのに。
いつか捨てられてしまうなら、早い内の方が傷は浅い。
「…見て、しまったの。あなたの隣を歩く桃色の着物を着た美しい人」
「は?」
十四郎さんは眉間に皺を寄せて、ウーンと唸りだす。
「いつだ?」
「…え、っと」
指折り数えてその日を思い出して告げると。
「…近藤さんの好きな女だ、ありゃ」
「え?」
「巡回中に会った。散々嫌味言われたよ、近藤さんをどうにしかしろって」
聞いたことがある、近藤さんが好きな人を猛烈に追い回してるって。
…それが、あの人?
「ッチ、信じられねェってのか?」
その声と共にもう二度と戻れないと思っていた胸の中に掻き抱かれる。
十四郎さんの煙草の匂いのする胸に。
「それが理由なら、考え直してくれ」
抱きしめてくれる腕が少し強くて。
その胸にギュッと縋りつく。
「お前以外、考えられねェんだよ」
「十四郎さっ…」
「お前じゃなきゃだめなんだ!他の誰かじゃだめなんだよ!」
だから、別れるなんざ言わないでくれ。
声にならずに必死に頷いて見上げた十四郎さんが、ホッとしたように微笑んで。
きっと今までで一番長いキスをくれた。
清香様御題
土方
お前じゃなきゃだめなんだ!他の誰かじゃだめなんだよ!
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