愛を込めて花束を♪[6/11]
「花奈さーん」
ガハハと笑っている周りより頭一つ背の高い男。
嬉しそうに手を振っているのを花奈は怪訝そうに眺めた。
…えっと…近藤さんとのデート…希望しましたっけ?私…。
誰かがポチッとボタン押したりすっから、私ここに来ちゃったような気がするんですけどォォォ?(私ィィィ?!)
「近藤さん、あの…間違えちゃって」
「さぁ、今日はどこへ行きましょうか?どこへなりと花奈さんの好きな場所へ行きましょう!この近藤勲、誠心誠意本日は花奈さんのために尽くしたいと思っておりますっ!!!」
聞いてないしっ!!
…声デカイ、声デカイよ、近藤サン…。
困り顔の花奈を見ても怯まない神経の太さに感動すら覚えそうだけれど。
きっと誕生日を祝いたいという、その気持ちだけは受け取ってさっさと退散しようか、だって次のデートがあるし、と思っていたのに。
その大きな手は花奈の手をギュッと握り締めたかと思うと、ズンズンと歩き出す。
…あぁ、行きたい場所さえ告げてないってえのに。
最早苦笑しながら近藤に付いて行くことにした。
「この先にですね、美味しいランチの店があるんですよ」
意外!!近藤サンの口からランチ、でもまだ信用しちゃダメ、だって近藤サンだから。
が、小さな洋食屋オススメのタンシチューの蕩ける美味さに花奈が目をシパシパさせると、嬉しそうに近藤が微笑んでいる。
「美味しいですよ!!近藤サンは食べないの?」
そう尋ねれば、近藤も慌てて口にして「アチッ」と顔をしかめたりして。
相変わらず何をやっても格好つかない人で…。
悪い人じゃない、わかってる。
ゴ…とか言うけれど、皆が言うほどのゴ…じゃないし、こうして優しくて何より温かく、誰よりも大きな心を持った人…。
次々に花奈を案内するのは、こ洒落たカフェだったり流行りらしい天然石のアクセサリーショップではそんなことまで調べていたのかという程に誕生石であるトルコ石のペンダントをプレゼントされた。
至れり尽くせりな近藤のエスコートは決してスマートではなくて。
ただそこにあるのは真心だけ。
一身に楽しんでほしいという純粋な近藤の姿勢に。
花奈も少し…頬が緩んで、その手を握り返せるようにもなっていた。
夜景を見ようと誘われたのはまだ昇ったことのない江戸を見下ろす今年出来たばかりのタワー。
「今日はありがと、近藤サン」
その江戸の灯りが一枚の絵に収縮されたような美しさに感動していれば。
いつの間にか、近藤が手にしていたのは紫の野花。
「近藤サン?」
花束と呼ぶには、少し粗末な野花だけれど。
「田村草って、言うんです…、これ知られてないけれど、誕生花なんですよ、花奈さんの」
麻や房藤空木は知っていれど、田村草?
その細く優しい花は密やかに揺らいで、近藤サンはどうぞと差し出してくれて。
思わず「ありがとう」と大切にそれを胸に抱くと近藤サンは。
首を横に振って微笑んで。
「ありがとうって言いたいのはオレだよ?だってきっとここに来たのは間違って迷い込んじゃったんでしょう?なのに、付き合ってくれて…オレ、本当に嬉しくて…だから、ありがとう」
「そんなっ…、間違ったというか、…最初はそうだったけど、私、近藤サンとのデート案外楽しかったですよ」
花奈の言葉に、目尻にジワッと涙が浮かんできて。
「お誕生日おめでとうございますっ!!!」
展望台フロアの全ての人々がその大声に驚いてこちらを向いていたけれど。
…まぁ、いいか。
「こちらこそ、ありがとう、近藤サン」
恥ずかしそうに微笑む花奈に、ガハハと笑いながら気付かれぬように嬉し涙を拭った。
田村草:花言葉は「あなただけ」
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