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BLコンテスト・グランプリ作品
「見えない臓器の名前は」
- ナノ -
愛を込めて花束を♪[5/11]


「晋ちゃん、デートしよう!」

「嫌だ」


撃沈。けれどこんなくらいでめげる私じゃない。どれだけ冷たくされてもめげない私をなめないでよね!


「散歩でいいの!」

「どこを散歩する気だ。窓の外見てみろ。ここは宇宙だ」

「……。船内でいいから!」

「しつけー。嫌なもんは嫌だ。俺ァしつけー女が一番嫌いだ」


……ねぇ晋ちゃん。私は確かに、どんなことをされても晋ちゃんを好きでいる自信がある。何せ私はまた子や万斉さんに鉄の心を持つ女と言われているくらいだ。……だけどたまには、硝子のハートになっちゃうこともある。例えば今日が誕生日だったりしたらね。


「……わかった。しつこくてごめんなさい」


私は頭を下げると晋ちゃんの部屋を出た。晋ちゃんは何も言わなかった。

誕生日くらい、365日のうち1日、むしろ24時間じゃなくてもいい。5分でいいから晋ちゃんに優しくされたいと思うのは私のわがままだろうか。

……うん、やっぱりそうだよね。晋ちゃんにとっては私の誕生日なんてどうでもいいだろうし、今日が誕生日だってことすら知らないかもしれない。


「諦めよ……」


優しくしてもらうことは。365日冷たくても、晋ちゃんのそばにいられればいいや。目の前に広がる星の海を見てふっと笑った。


「そんな簡単に諦められるような気持ちだったのかよ」


突然そんな声が耳元で聞こえて。背中が温かくなった。後ろから抱き締められていると気づいたのはお腹の前にあった自分の手が大きな手に包まれてからだった。

それはよく知っている、愛しい愛しい人のものだった。


「晋ちゃ……」

「あんなこと、別にいつも言ってんだろ。なんでそんな気にすんだ。今日が花奈の誕生日だからか」

「え……!」


晋ちゃん、勘違いだよ。そう言いたかったのにそんなこと一気にどうでもよくなった。誕生日って、知っててくれたの……?!


「諦めんな馬鹿」


首筋に顔を埋める晋ちゃんの手を握ると、熱い手が握り返してくれた。

その後自分の部屋に戻ると小さな花束がテーブルに置いてあって。素直じゃないあの人の元へ、私はもう一度走った。




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