愛を込めて花束を♪[3/11]
「花奈殿〜!!」
…はいィィィィ?!
「そなた、普段運動はしていないのか?それではすぐに捕まってしまうではないか?!」
背後に迫るのは真撰組、決死でその追っ手から逃れるために走ってはいるものの。
この状況おかしいでしょー?!
息も切れ切れになって彼に向かって文句の一つも言えない。
もうダメ、心臓が破れそうってぐらい走って走って、どうやら巻いたらしく。
橋の下で彼はようやく足を止めてくれた。
「息が上がっておる、よく頑張ったな、花奈殿」
しゃがみ込む私を見下ろすのは微笑みを浮かべた端正な顔立ちの。
「喉が渇いたであろう?んまい棒でも食べるか?」
…残念な人…。
食えるか?!喉に貼りつくわ!!!
ああ、そうだ、こういう人だった。
何を期待していたのだろう?
顔だけじゃん、顔だけの残念な人と今日という日を過ごしたいと思ってしまったというのか…?
自分が残念で仕方ない。
「桂さん、私用事ができてしまいまして…本日はもう帰らなければいけませんの」
いや、本日だけではない、もう二度と会いになど来るまい。
それでは、と立ち上がり一礼をした私の肩に置かれた、手の感触。
「桂さん?」
顔を上げたそこにあるのはいつもの美しい顔で。
けどね、騙されないよ?その顔でいつも間の抜けたことばかり呟くのでしょう?
「…ほんの少しだけ、花奈殿の時間をオレにくれはしないだろうか?」
「え?」
「今日は花奈殿の誕生日であろう?…少しだけでいい、貴重なその時間をオレに分けてはくれまいか?共にこの江戸を大手を振って歩いてみたいのだ、今日という日に」
…あれ?
顔はいつもと変わりはしないのに、何故かその頬は赤い…?
「桂さん、それって」
「察してはくれまいか?…少しでも花奈殿の側におりたいのだ…、祝いたい、のだ」
ああ、わかってくれていたんだ。
私の誕生日だってこと。
きっとそんなことに気付いてくれるような器用な人だなんて思っても無かったから。
見詰め合うとその瞳の曇りない美しさに、彼の純粋さが見えて。
何だか泣きそうになる…。
「ん?!」
ポンポンと後ろから私の肩を叩く人。
誰だ?!いいとこだってえのに!!
振り向けば、エリザベス?!
プラカードには『どうぞ』の文字、手に持っているそれは。
赤、白、ピンク、紫。
キレイにラッピングされた小さな花束。
それを受け取るとスタスタとエリザベスはまたどこかへ消えていく。
「ペチュニアという花だそうだ」
「ペチュニア?」
「…オレはいつもいつも忙しくしておる。それもこれも己の目指す未来のためのこと、仕方ないとは思っているのだが…。それでも時折、癒されたいと思ってしまうのも事実。花奈殿、そなたの顔を見てはオレはこの花言葉を思うのだ」
「花言葉…ですか?」
「そう…君といると心なごむ…だそうだ」
あ…と思う間もなく、その優しい手が私を抱き寄せて。
優しく包み込まれた私の頬にサワサワと当たる美しい黒髪があって。
「…桂さん…、あの」
「すまぬ…が、しばしこうさせてくれ…。せめて後少し」
「…桂さん」
「わかっておる、花奈殿がとっくにオレに呆れていることなど…だがオレはそれでも」
「…呆れてなんてないですよ、ちょっと…面白い人だなとは思うけど…だから、少しなんて仰らずにどうぞしばしこのままで」
桂さんの背中に手を回すと驚いたようにビクッと震えて、けれど安心したかのように抱きしめてくれていた腕に少し力を込めて抱きしめ返してくれた。
「…花奈殿が生まれてきてくれたことに、オレは一生感謝しよう」
おめでとうと、呟いた桂さんの胸の中で、何度もありがとうを返して…。
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