愛を込めて花束を♪[2/11]
『20日、空いてるか』
珍しく土方さんから電話がかかってきてそう言われれば、嫌でも期待してしまう。10月20日は私の誕生日。もしかして誕生日に一緒にいてくれるのか、って。
「空いてます」
『18時に家康像の前で。いいか?』
「はい!」
そして待ちに待った20日。着ていく服を悩みすぎて10分遅刻してしまった。でも家康像の前に土方さんはいなくて。仕事が長引いてしまっているのかもしれない。近くにあったベンチに座って待つことにした。
***
「土方さん、なんか焦ってやすね」
ニヤリと笑った総悟にイライラが募る。どこで情報を仕入れたのか知らないが、総悟は今日俺が花奈と会う約束をしていることを知っていた。
「てめー…、わざとだろ」
「何の話かさっぱりでさァ」
死ぬ気で書類の仕事を終わらせて、今日は絶対ェ約束に間に合うように待ち合わせ場所に行ってやる。そう思っていたのに。さぁ、隊服から着流しに着替えようと立ち上がったところで隊士が民家をぶち壊したと連絡が入った。もちろん犯人は総悟だ。
「いつかてめーをぶっ壊してやるからな」
「おー、怖いねェ。てことで土方さん、後片付けよろしくお願いしやす」
あぁ、もう。上にも下にも問題児を抱えた俺に幸せは来ねェのか。
隊士を動かして何とか片付け終わった頃には22時を回っていた。もう帰ってるだろうな。花奈の携帯に電話をかけるも、繋がらない。もしかして怒っているのだろうか。それとも何か事件に……。嫌な想像ばかりが頭を巡って、必死でそれを振り払いながら待ち合わせ場所に急いだ。
家康像の前に着くとそこにすでに人気は少なく、花奈の姿も見当たらない。沈む気持ちを何とか奮い立たせてもう一度携帯を鳴らせば。
ピリリリリ、とどこからか着信音が聞こえてきた。辺りを見渡すと
「何やってんだ……」
近くのベンチに座って膝を抱き、そこに顔を埋める花奈の姿があった。
「オイ」
腕をツン、と突いてみると、顔を上げた花奈は寝ぼけ眼で。
「やっと来た」
そう微笑んだから。たまらなくなって小さな体を抱き締めた。
「悪かった。総悟の奴がまたやらかしてな」
「ふふ。いつものことだから大丈夫」
「こんなとこで寝んな。風邪引くし、それに危ねェだろ」
「うん、でも……、土方さん温かいから」
俺の胸に頬を寄せる花奈の体は冷えきっていて、背中をさするとそこからじんわりと熱が広がった。
「……これ」
「わ、綺麗……」
「誕生日おめでとう」
ここへ来る途中に寄った花屋で買った小さな花束。せっかくの誕生日にこんなことしかできねェなんて。申し訳なくなって謝れば。
「充分です。だって土方さんは絶対来てくれるから」
心に小さな、だが確かな灯りが灯った。
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