×
「#オリジナル」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -
SS[3/15]

銀ちゃんを振る





「銀ちゃん」

好きと呟く唇を優しく繋いでくれる。

その腕の中に包まれると、世界一幸せになれる。

銀ちゃんの側に、いたい。

「今日はどうしたの?積極的じゃね?」

熱に浮かされたように銀ちゃんにしがみついてキスをねだる私に銀ちゃんは首を傾げつつも。

相手にしてくれていて。

ひとしきり、十分にキスをもらえた後で。

「ありがと」

そう言って裸の銀ちゃんの腕の中で彼を見上げる。

「は?何だよ、ソレ」

「もう十分、銀ちゃんからいっぱい愛して貰えた」

もう一度だけ顔をその広い胸に埋めた。

銀ちゃんの甘い匂い、覚えていたい。

「なぁ、どうしたんだよ?」

優しい、どこまでも優しいその声に決心が揺らぎそう。

「銀ちゃん、別れよ」

その瞬間、銀ちゃんが固まったのがわかった。

けれど、嘘じゃないの、本当の話。

「っ、何言って」

「結婚するんだ、私」

「っ聞いてねえ」

「言ってなかったもん」

見上げた先にある赤い瞳が怒りなのか悲しみなのかはわからないけれど。

いつもとは違う色が燃えているようで怖くなったけれど。

最低なことしたのは私だ。

「銀ちゃんに出会う前から、私には許婚がいたの」

だからね、二股、かけたの。

出逢ってすぐに惹かれた。

この人がいいって、この人にアイサレタイ。

好きって伝えて、愛してもらえて本当に本当に幸せで。

繋がったまま二度と目が覚めなくなればいいのに、と思った。

そしたら私は銀ちゃんしか知らないままで、どこまでも悪い女のまま堕ちて行けるって。

「…いつだよ」

「え?」

「結婚式、いつかって聞いてんの?!」

「…14日」

「って明日じゃねえかよ!!何でもっと早く」

「もっと早く言ってたら何か変わった?変わらないよ?別れるのがもっと早くなった、だけ」

「…ッ」

銀ちゃんは私を抱き寄せてギュッと痛い位に抱きしめる。

ああ、抱きしめられたまま、このまま誰にも縛られない世界で銀ちゃんと2人だけで暮らせていけたらな。

止め処なく伝う涙を。

愛しそうに唇で受け止めてくれる彼に。

最後にできるのは。

「…チョコ、作ってきたの」

「は?」

「冷蔵庫に入れてある、明日、食べて」

「…いらねー」

「…」

「いらねーよ、もう。花奈のモンなんか全部」

そう言った銀ちゃんの目が赤く、潤んでいて。

それに指を伸ばすと、目尻から流れるものが生暖かくて。

「やだ、銀ちゃん、笑って?」

銀ちゃんは私の一番大切な人なの。

親の定めた婚約者なんて、どうだっていいの。

あなただけはいつも笑っててほしいの。

どこか遠くで私はそれを見かけて。

それを糧に生きていこう、と思ってるんだから。

「どうやって笑えっての?」

「銀ちゃん…」

「お前なしじゃ笑えねーよ。なァ、知ってる?どんだけオレがお前のこと好きか」

そう言うなり、銀ちゃんの荒々しいキスは全身に及んでいく。

それは首筋や手首、肩、見えるところに。

至るところに。

これ以上ないってほどに、吸い付かれて。

「っや、ダメ」

だって、見えちゃう。

ウェディングドレスは肩なしのもの。

こんなに幾つも赤いものがあれば、気づかれてしまうのに。

…だけど。

「行くなっ…」

埋めた銀ちゃんの頬が肌に触れるとわかるのは、濡れていること。

…泣かないで…。

「…こんなにされたら、ドレスが着れないよ」

その柔らかな髪を抱きしめて優しく撫でる。

「…行かせねえ」

「銀ちゃん」

「あ?」

「…もっと、…いっぱいつけて、私が行けなくなるように」

お互いに合わせた瞳は涙でいっぱいだけど。

「そーさせてもらうわ」

泣きながら微笑みあって。

銀ちゃんはまた首筋に深く吸い付いた。

…行けなくなるって意味がわかってる?

私は、ずっと、…。

「ずっと、ここにいろ」

聞けなかった答えを貰えて。

ポロリと落ちた涙を銀ちゃんは笑いながら掬いあげてくれるから。







ずっと、側に置いてね




目次へ
[3/15]