テンパな人とテンパる人[4/4]
「…たさんっ、土方さんっ!!!」
ユサユサと揺さぶる手と花奈の声に。
ようやくハッと我に返った時には万事屋の姿はもう無い。
「あ…れ?ヤローは?」
「帰りました、今日は止めとこうって」
「…今日は、って。…また会う気なのかよ」
「…ダメですか?」
「ダメに決まって」
「友達なのに?」
「…ただの、友達かよ?」
何でわかってくれねえんだよ?
ため息をついて花奈を見た。
「…いい、わかった。だったら、とっとと万事屋追いかければいいじゃねえか」
ツイッと花奈に背を向けて歩き出す。
振られたのはオレの方ってわけで。
んなオレが会うなとかヤキモチ妬くような資格なんざねえし。
「待って下さいっ!!!」
上着の裾を思い切り引っ張る花奈の手に。
オレは足を止める。
「土方さん、勘違いしてらっしゃるんです」
その声が震えているから振り返って。
その瞳いっぱいに溜まる涙に手を伸ばすこともできずにただ見下ろした。
「…万事屋に乗り換えたんじゃねえのかよ」
「ッ?!」
とうとう花奈が泣き出してしまって、それでもオレは抱きしめることもできなくて。
「…お前は二股なんざかけれる器用な女じゃねえだろ。だからな、もう無理すんな」
アイツのとこに行け、と突き放した。
泣きながら見上げた花奈の顔は。
怒っていた。
泣きながらオレをグッと睨み上げてきて。
「…銀ちゃんと、行ってたのは甘味処、です」
「?」
「もうすぐバレンタインだから、美味しいチョコを作りたくて。どんなのだったら喜んでくれるかな、って甘党の銀ちゃんに相談していて」
「…誰に渡すつもりで」
「決まってるじゃないですか!!!!」
袂から出した小さな箱をオレに突き出す。
「試作品です、でも、もう作りませんっ。私、今まで浮気なんかしません、したことないです!!!ずっと、土方さんだけのつもりでした。でも、そう思ってはくれていないみたいですし、疑われるのは悲しいですし。もう、止めます。」
「止める?」
アイツと会うのをか?!
「土方さん、…今までありがとうございました。」
箱をオレの手に乗っけて遠ざかってく花奈。
止める、って。
オレとのことかよォォォォォ!!!!
今まで、ありがとう、ございましたァァァ?!
ちょ、ちょっと待てッ!!!!
嘘だろ、オイィィィィ!!!!
慌てて走って追いついて。
後ろから抱きすくめても尚花奈は泣きながらずっと怒っていて。
「離してッ!!!」
人目も気にせずに腕の中で暴れている花奈。
「…オレが悪ィ、全部オレが」
「そうですよ、土方さんが全部!!!」
「けどな」
「はい?」
「オレにヤキモチなんか妬かせてんじゃねえよッ!!!…お前取られちまったかって、焦ったじゃねえかよッ!!!」
「え?」
急激に花奈が暴れていた力が弱まって。
「…ヤキモチ、妬かれてたんですか?」
振り返った花奈が真っ赤になって見上げていて。
「…悪ィかよ」
ボソリと呟くと。
「…悪く、ないです」
何だか嬉しそうに笑う花奈に少しムカついて。
抱き寄せてキスをする。
「勉強なんざしなくていいから、…万事屋と2人で会ったりすんじゃねえよ」
「待ち合わせは2人でしたけど、甘味処には新八くんも神楽ちゃんも妙ちゃんもいるんですよ」
…って、ちょっと待て、総悟ォォォォォ!!!!!!!
あのヤロー、他全部カットしてやがったな?!
「…なら、たまにゃァいいが」
コホッと咳払いすると。
「はい、土方さんがヤキモチ妬かない程度に、ですね」
…あ〜、しばらくこのネタで花奈に主導権握られそうじゃねェか。
が、たまにゃァ悪くねェ。
「帰るぞ」
「はいっ」
手を繋ぎ屯所へと歩き出す。
「…試作品、一個食っていいか?」
「どうぞ」
万事屋にしたみてえにオレの口に入れたそのチョコレート。
指について溶けたそれがついた指を花奈はペロッと舐める。
あ、だからさっき指舐めたのか、って…。
…。
エ…?
クッソ甘ェェェェェんだけどォォォ?!
「どうですか?銀ちゃんはすごく美味しいって」
「…中のつぶつぶ、こら何だ?」
「宇治金時ですよ」
「…ヤメロ、マジでヤメロ!!!!チョコの中にあんこって殺人的だろ!!!」
え〜、とふてくされた花奈に。
「中身マヨにしてみろよ」
そう言ったら、ゲンナリした顔されたけれど。
きっと、お前ならそうしてくれるような気がすんだけど?
「…ま、いっか。お前から貰えんなら何だってな」
目が合うと微笑む花奈が愛しくて。
繋いだ手に力を込めた。
fin
つばさ様へ
TO BE1万Hit祝
2013/2/5 コトノハ 茅杜まりも
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