日付が変わるその前に[3/4]
「土方ァ?…オイ、土方コノヤロー、死ねよォ、土方ァ」
「…あ?」
ボケッとしてたから聞いてなかったが、コイツ今何かとんでもねえこと言ってなかったか?!
「っだよ?」
「花奈さんの誕生日だって知ってやしたか?」
「…まァな」
「さすが似非(エセ)彼氏」
「似非って何だよ」
一応花奈と付き合いだしたってことは、周知の事実なはずで。
「だってそうでしょうが、付き合ってから何度デートしやがりやした?」
ギクッと冷や汗が出る。
確か、付き合い始めのきっかけである遊園地以来、どこにも行っていない。
「今日だって彼氏だったら一番最初にプレゼント渡してやってるんでしょうねィ?」
…まだ、渡せてねえよ!!!!
「大体、付き合って何年も経つわけじゃねえ。つい最近だろィ?初めての花奈さんの誕生日ぐれェ、休み取ってどっか連れてってやったら良かったじゃねえですかィ」
…そ、その通りだよッ。
「だから似非彼氏だって言ってるんでさァ。ま、クリスマス前に花奈さんに愛想付かされるのがオチでしょうねィ」
言いたいことをズバズバ言われて何も言い返せねえ。
その日の取り締まりは、大量に違反者を捕まえてやった。
ほんの少しのオーバーすら見逃さずに。
「たった、5キロしか」
文句を言おうとした男を、ひと睨みすれば、すいませんでした、と頭を下げる。
そんな取締りが終わり、屯所に帰ったのは、もう日付も変わる頃。
明りが点いているのは玄関と廊下ぐれえで。
「お疲れさまでしたァ」
ポイポイと靴を脱ぎ捨てて総悟が、とっとと自室へ戻って行く。
仕方なく総悟の靴も揃えて中に上がりこみ、自室へと向かう途中で。
ふと、女中部屋へと続く廊下に目を向けた。
…寝た、だろな。
諦めて、部屋へと戻り上着を脱いだ瞬間、内ポケットから小さな箱が転がり落ちる。
…やっぱ、今日中に渡してえ。
直接じゃなくても、花奈の部屋の前に置いておくだけでもいいんじゃねえか?
ズボンのポケットに仕舞いこんで。
襖を開けた先で。
キャッと小さな悲鳴が聞こえた。
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