日付が変わるその前に[2/4]
…どいつもこいつも、花奈の誕生日覚えていやがって。
でもって、どいつもこいつもアイツの喜びそうなもんプレゼントしやがって!!
オレのが霞んじまうだろうがァッ!!!
朝から何度かチャンスを探ってきた。
花奈が1人で洗濯場に行けばそのあとを追ってみた。
その先で原田が「今日は誕生日なんだから、楽しなよ」とか言って。
花奈にジュースを手渡して、洗濯物奪って干してやってたり。
浴場の掃除に出かけた花奈を追えば。
若い隊士たちが「誕生日ですよね?何もないですけどお手伝いさせて下さい」とか。
食堂のおばちゃんたちからしたら若い花奈は娘みてえなもんらしく、やはりピンク色のエプロンをプレゼントされていたりで。
…結局もう昼過ぎだってのに、花奈に渡すチャンスがねえ。
…だから、休み取ってどっか行くか?って提案したのによ。
『師走ですもの、土方さんがお忙しいのわかってます。いいんです、屯所に居れば土方さんに会えますから』
なんて、顔赤くして言われてみろ。
何も言えなくなっから。
確かに師走は忙しい。
交通安全月間とかに借り出されて今日もこれから取り締まりに出かけなくちゃならねえ。
…だから、買い物から帰ってくる頃がラストチャンスか。
後はもう日付が変わる頃でねえと会えねえし…起こすのも、可哀想だ。
女中が朝4時から動いているのは知ってんだからよ。
冬の玄関先で1時間、煙草を燻らせて待った先で。
花奈が現れた。
その横には銀髪野郎?!
ッチ、何でテメエがっ?!
咄嗟に物陰に身を潜めると。
「オラ」
屯所の前まで来ると花奈に荷物を手渡している。
「銀さん、ありがとうございます!」
あ、荷物持ってもらってたのか。
「いや、いいって。こんぐれえ。だって誕生日だろ?」
そう言って胸元から出したのは、茶色い…板チョコ?
「パチンコの景品で悪ィなァ、時間あればパフェでも奢ってやったのに」
「いえいえ、でもいいんですか?銀さんからチョコなんか貰っちゃったら、銀さん糖分不足になりません?」
「う〜ん、でもまァまた今からパチンコ行くんでェ、どうにかなんでしょ」
「では遠慮なくいただきますね、ありがとうございますっ!!」
じゃあなァと手を上げて去る万事屋を花奈が見送って屯所に入ろうとする花奈に。
今度こそ、と物陰から飛び出そうとした瞬間に。
「花奈さん、おかえりなせェ」
ガラッと戸を開けて出てきたのは総悟。
「ただいまです、見廻りですか?」
「取り締まりでさァ、土方のヤロー、見かけやせんでしたか?」
「そういえば、今日はご飯の時にお見かけしただけで」
と首を傾げる花奈の背中の向こうで。
総悟が何かに気付いたように、こちらを見てニヤリと笑った。
「花奈さん、そういや今日誕生日なんだろィ?」
「はい」
「渡すの忘れてやした」
そう言うと背中に隠していた手を花奈の前へ。
そこにはピンク色のクリスマスローズの花束。
「おめでとうごぜェやす」
「ありがとうっ、凄くキレイ」
受け取って花に顔を埋めている花奈に。
「でも、花奈さんのがキレイでさァ」
あれ?
総悟の手が花奈の肩に置かれて、そのまま近づいていってますけどォォォ?!
だ、ちょっと待て、総悟、ゴラァァァ!!!!
「じ、時間だ、総悟っ!!!」
慌てて物陰から飛び出した瞬間にニヤリと笑う総悟と。
驚いて振り返る花奈。
「土方さん」
何をされそうになったかわかってねえらしく、花奈はいつものようにオレに微笑み掛けてきていて。
その無垢さに、思わず目を反らした。
「お2人で取り締まりに行かれるんですか?」
「ああ、だから夕飯はいらねえ。帰りは深夜になる」
「そうですか」
花奈の声のトーンが少し低くなったように感じてチラリと見ると、ほんの少し寂しげな顔をしていて。
「…じゃァ、行ってくっから。…行くぞ、総悟」
「へーい、あ、土方さん」
「あ?」
「吸殻は拾ってくだせえよ」
そう言われて隠れていた場所を見ると、その先に一つ落ちているマヨボロの吸殻。
慌てて消して隠れたから、落としてしまったらしい。
この野郎、それに気付いててわざとっ!!!
「いってらっしゃいませ」
吸殻を拾いパトカーに向かって歩くオレらの後ろで花奈の見送りの声が聞こえて。
一瞬振り返った先で手を振る花奈の笑顔に罪悪感。
…渡せなかった。
今花奈の元に踵を返して、手渡すだけでいいってのに。
一言「おめでとう」と伝えてやりてえのに。
己のプライドに腹が立つ。
その優しい笑顔に笑い返してやることもできねえで、背を向けた。
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