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君との距離感[1/4]

「花奈サン、言われてた資料ですが」

差し出したそのゴツイ手に似合わないような白い書類。

「近藤クン、一個抜けてる。私、言ったでしょ?写真の添付だけは忘れないでって」

「あっ!!」

そういえばと、口を開けた巨体を見上げる銀ブチ眼鏡の下から覗く冷たい視線に。

近藤はたちまちオドオドしてしまう。

「うーん…この一個だけあれば完璧な書類だったのに…残念」

ふぅっと息をついて口を尖らす姿は。

年上の出来る女の顔を、一瞬子供のような顔つきに変えてしまって。

怒られているというのに近藤は上機嫌になってしまうのだ。

「え?」

「はい?!何ですか?!」

「今、笑ってなかった?」

「いや、笑ってませんよ、怒られてるのに笑うバカがどこにいるんです?」

いたよ、今確かに怒られて笑ってるバカいたし。

「じゃあ写真持ってきてくれる?先に会議に向かうから」

「了解です!他に欲しいもの、ありませんか?花奈サン!!」

「あ、あるある」

「はいっ!!」

「声、控えめにお願いね、静かな近藤クン希望します」

そう言うと、ツカツカとヒールを鳴らして歩いていく背中が。

小さいくせにピンと伸びていてかっこいいのだ。

二つ年上の上司、花奈は皆の憧れの人。

仕事ぶりは完璧で、後輩のフォローにも長けていて、なのにフランクな性格は仕事以外の飲み会ではザックリ皆と打ち解けていて。

そんな花奈の直属で半年前から入った会社を上げてのプロジェクトに花奈のパートナーとして入れてもらえて。

近藤は浮かれていた。

そう、最初のうちは。

だって、彼女のことが好きになっていたから。

後輩がしでかしたミスを責めることなく上手にフォローする姿にも。

失恋して会社の飲み会の席で泣いてしまった女の子を。

そっと他の店に連れ出して、朝まで付き合ってたってのを聞いた時も。

さっきみたいな自分のミスも後々責めることなく。

そんな一つ一つを見ているウチに、好きだなぁと。

だから側にいられることが嬉しくて堪らなかったのに。

見てしまったのだ。

他のプロジェクトチームにいる男が落とした書類を拾って走っていく花奈と。

それを嬉しそうに振り返った男が。

誰もいない、と思ったのだろう。

一瞬、唇が触れ合って嬉しそうに笑って別れる姿を。

…そりゃ、そーだよなー。

あんな素敵な人に男がいないわけがない。

なんて、落ち込んだのだけれど。

それでも思う気持ちをすぐに変えることなどできずに、もう3ヶ月。

不毛な恋に今日も自分で苦笑した。




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