永想[5/5]
何でィ、逢いたかったってえのはただ幼馴染としてじゃねえか。
ボケェっと川面を見下ろしていれば。
「総ちゃんっ、総ちゃん!!!」
花奈の、声?
見回せば歩いてきた方向から泣き面の花奈が走ってくる。
「花奈、どうしたんでィ?」
その顔に驚き駆け寄ると息を切らしながら、そっと総悟にしがみつく。
「怒ってる?」
「怒ってやせんぜ?」
怒ってると思ったのか?
それで泣きながら走ってきた、と?
「良かった」
ヘナァっと花奈がしゃがみ込む。
そして、衝撃的な言葉を発した。
「総ちゃん、…私ね、クビになっちゃった」
「へ?」
「総ちゃん追いかけるならクビにするよって貞臣様が…だからクビでいいですって、言っちゃった」
泣きながら笑う花奈の手を引き立ち上がらせて。
そっと抱き寄せた。
「バカですかィ、オレのことなんかほっときゃいいもんを」
そう突き放す口調とは裏腹に花奈を大切に胸に閉じ込める。
「だって、あんな顔の総ちゃん見たことなかったから、すごく怖くて。嫌われちゃったのかな、ってそう思って」
「嫌うわけねえだろィ!!!」
そう言うとホッとしたように泣き止む花奈に沖田は苦笑する。
「総ちゃん、あのね、今度は手紙出すから!!逢いたいじゃなくて元気ですか?って書くから総ちゃんも元気だって返事して?」
「花奈?」
「武州に帰るよ、また離れちゃうけど忘れないで?」
帰る?!
「逢いたいって、そう思ってくれてたんじゃねえんですかィ?」
「総ちゃ」
「オレァずっと逢いたかった、やっと逢えやした」
花奈の顔に手を添えて上を向かせて、その目を覗きこんだ。
「わ、私も…」
頬に添えられた沖田の手が熱いのか自分の顔が火照っているのか。
きっと両方なのだけれど。
「逢いたかった、よ」
そう告げると沖田の目が笑っている。
「帰るだなんて許しやせん、こっから先はずっと側にいなせえ」
離れていた分、ずっと。
思いの丈は伝えたつもりだった。
なのに。
しがみつく花奈の手が震えている。
「総ちゃん、私ね?勘違いしちゃいそう」
「は?」
「総ちゃん優しいから違うんだろうけど、それって何か好きな子に言ってるみたいで」
「…案外鈍感だったのかィ」
ハァっと大きなため息をつく沖田を。
花奈が不安そうなに見上げた。
その頼りなさげな花奈の顔を持ち上げてゆっくりと唇を落とす。
触れるだけの初めてのキス。
「昔から花奈のことが好きだったんでさァ」
驚いたように目を見開くと見る見る涙が溢れて。
泣きながらそれでも花奈は微笑んだ。
「何だ、…だったらずっと両思いだったんだ」
沖田の胸に飛び込んできた花奈をギュッと抱きしめた。
オレのこと一番分かってるのは花奈だろ。
花奈のことを一番わかってんのは、オレですぜ?
だから、もう二度とオレらは離れないでおきやしょう?
「側にいてくだせえ」
お互いの温もりの安心感に抱きしめあって…。
「さぁて、帰りやすぜ?」
手を引きながら歩きだす。
「どこ、へ?」
「四の五の言わずに着いてきなせえ」
楽しそうに歩き出す沖田を見上げれば不安なんか飛んでいきそうで。
花奈もその隣を歩き出す。
ようやく交わった道を一本に束ねて。
fin
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2013/9/12 コトノハ 茅杜まりも
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