永想[3/5]
「私ね、総ちゃんにいっぱいお手紙書いたんだよ」
街を見廻りながら、花奈が止め処なく話す故郷の話に耳を傾けていれば、突然そう話し出す。
「オレァ、一通も貰ってやせんぜ?」
見下ろせば花奈は俯いていて。
「今でも書いてる、週に一度は、けど。出せなかったんだよね」
「読んでやるから次会った時に全部寄こしなせえ」
「イヤ、だって恥ずかしいもん」
「恥ずかしいって何だよ、オレに書いたもんはオレのもんだろィ!!」
「…逢いたいなぁって何十回も書いてるんだもん」
真っ赤な顔でこっちを見ようともしない花奈の手を握る手に力を込めた。
「オレだって…」
そう言ったまま黙ってしまった沖田を見上げれば。
多分、照れているようで。
「総ちゃん?」
「へい」
「総ちゃんも逢いたいって、私のことたまには思い出してくれたの?」
「…どうだろうねィ」
反らしたその目に真実が映ったようで嬉しくて笑う花奈に。
沖田もまた目を細めた。
逢いたい、と何度も思った。
姉上からの手紙に花奈の話があれば、それだけで嬉しくて。
元気でさえいればいい、とそう願った。
最早遠くの空の下にいる初恋の女。
自分とは住む世界が違う、普通に幸せを掴んで欲しい人。
こうして、きっと笑っててほしい。
この笑顔をもう一度見ることができて、良かった…。
「今度は屯所に遊びに来なせえ」
「いいの?」
「いいに決まってんだろィ」
クシャッと背の低い花奈の頭を撫でれば、嬉しそうに笑う。
きっとこれは、ここからは昔の続きを始められそうなそんな予感で。
「…花奈?今帰ったのかい?」
店から若旦那風な男がひょいと顔を出した。
「貞臣様、お休みをありがとうございました!おかげで色々と江戸の街を見て回ることができました、ありがとうございます!!」
やはり主人なのだろう、花奈は深々と頭を下げていて主人はそんな花奈に優しい目を向けている。
まるで、その目は…。
「あなたは真撰組の…」
花奈の横にいる沖田に男は、一瞬イヤなものでも見るような目つきをし、すぐに営業用なのか微笑みに変わる。
「私の幼馴染なんです、真撰組の沖田さんです!」
「そうか、花奈は武州の出だものね」
そう言って沖田に少しだけ頭を下げて。
「送って下さりありがとうございます、私も一緒に休みを取れれば良かったんですがね」
あなたの世話になどならずとも、と言いたいのだろうか。
この男は、花奈のことを?
「じゃあ、オレはここで」
「総ちゃんっ!!!」
背を向けた沖田をその声が一瞬立ち止まらせた。
「ありがと!!今日は本当にありがとう!!!すごく楽しかったよ」
きっと必死に手を振っているだろう花奈を振り返らずに手を上げて歩きだした。
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