永想[1/5]
いつものように、見廻りがてら行きつけの団子屋でくつろいでいた。
天気いいのにただ見廻りなんてダルくて仕方ない。
沖田の場合、天気関わらずな気もするが。
団子を頬張りながら秋空を見上げていれば。
「総ちゃん?!」
正面から懐かしい声で自分を呼ぶ女。
「…」
見間違えかと思った、だけど…。
「総ちゃん、…でしょ?」
顔を真っ赤にして嬉しそうに笑っている娘。
見忘れるわけなどない。
「っ、花奈?!」
ここにいるはずのない娘の名前を呼んでみた。
「そう!!覚えててくれたの?総ちゃん!!」
昔と変わらずニッと口を横に広げて笑う花奈の大きな口元に、沖田も顔が緩む。
「忘れるわけねーだろィ」
変わらない、何も。
その明るい性格も笑顔も声も。
が、5年の月日が変えたのは。
花奈を、あの頃よりもずっと女性らしくキレイにしたということ。
多分、沖田自身だって相当変わったのだろうけれど、女の成長の早さに何だか焦った。
「で、一体花奈が何でここにいるんでィ?」
焦る自分の気持ちを押し隠すかのようにあくまでいつものポーカーフェイス。
「…就職でこの春江戸に出てきたの…」
おずおずと話したその言葉に沖田の眉がピクリと動く。
「何で連絡寄こさないんでさァ」
「あ、だって…5年ぶりだよ、…全然連絡してなかったし、総ちゃん迷惑かも、って」
「迷惑なわけねぇだろィ」
何、余計な気ィ使ってんだか。
「元気でしたかィ?」
「うん、総ちゃんも?近藤さんや、土方さんは?」
「あー、皆元気しか取り得がねーもんで」
「良かった、新聞ではたまに見るの!総ちゃん頑張ってるんだなって思ったら嬉しくて!だから、真撰組が一面に乗った時は必ず新聞買うの、もう押入れに二束もあるのよ」
嬉しそうな花奈に苦笑する。
一面に載るときは大概器物破損とかそんなんだったから。
「今日は仕事は?」
「お休みよ、すぐそこの旅籠で女中をしてるの」
「同じ女中ならウチでも募集してやすぜ?どうでィ?」
「だって、私だとコネになっちゃうでしょ?それって本当に女中志願の人の働き口一つ奪っちゃうみたいで…」
こういう、とこだ。
妙に正義感があって、思いやりがあって。
ああ、変わらないな、と安心した。
「だったら、今日は暇なんですかィ?暇なら江戸の街案内してやりまさァ」
「え?!だ、だって、総ちゃんお仕事してるんじゃないの?」
沖田の隊服を見て花奈が首を傾げる。
「あぁ、大丈夫でさァ、年中有給使えるとこなんで」
そうなの?と益々首を傾げる花奈に手を伸ばす。
花奈も小さな頃と変わらずに、沖田の手をそっと握った。
「さて、まずはどこから周りやしょう」
行きたいところはないか、と尋ねれば。
「総ちゃん、あのね初めに行きたいとこがあるんだけれど…」
花奈の言葉に沖田は目を細めた。
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