おかえりなさいR15[1/4]
「花奈ー、今帰ったぜよー!!!」
ガチャガチャと無遠慮に鍵を開けて帰ってきた男に寝たフリを決め込む。
堂々とした午前様。
毎度のこと、真っ直ぐなんて帰ってこない。
また、すまいるでしこたま飲んできたのだろう。
お姉ちゃんたちに愛想振りまいてきた節操無しの大型犬のご帰宅。
ご主人様なんて、あの犬にはいないだろう。
別にいいけどね?
私には可愛いペットがいますから。
寝室のドアがギィツと開く音がする。
そして、ベッドが少し沈みこんだ。
「花奈…、寝てるが?」
頭から布団をかぶった私の耳に久し振りに聞こえてくる懐かしい、声…。
が、もちろん寝たフリは続行。
それとこれとは関係ない!!
だって私はあんたと違って明日も仕事。
だから、シッシッ、リビングのソファーで寝て?
生憎このベッド、今日は満員なの。
「花奈…、怒っちょるんか?」
そう言ってゆっくり圧し掛かる男は。
「ワンッ!!」
その声に驚きベッドから飛び降りて。
「っ、花奈が犬になってしもうたが?!」
ソロリと布団を捲って、中を見ればそこに…。
「ウ゜ゥゥ」と唸る、大型犬と。
その横で丸くなって眠る花奈の姿。
「!!!こ、これは何じゃー?!」
真夜中だというのに大声を上げる男に犬は益々唸り声を響かせた。
「…辰馬、お止めなさい」
目を瞑ったままため息交じりにそう呟けば、その大型犬はクゥゥンと鳴いて花奈に寄り添うようにまた横になる。
「アハハハハハー、花奈…、今辰馬って???」
「そうよ、この犬の名前。可愛いでしょ、ボルゾイって言うんだけど大きくて癖毛でまるで誰かさんみたいでしょ?誰かさんみたいに節操なく尻尾は振らないけどね?私一途な子なの」
ツンとすました花奈の寝顔に、人間辰馬は眉尻を下げた。
「わしも花奈一途ぜよ!!」
「じゃぁ、今日はどこ行ってきた?」
「クゥゥゥン」
「クゥゥンじゃないよ、ったくさ。真夜中に帰ってきたと思ったら騒がしい。あ、ここは私と辰馬の寝室となりましたので毛玉さんはリビングのソファーベッド使って?大丈夫よ、今日来るのは連絡あったから布団も置いておいたし」
「…わしが辰馬じゃきー」
「いや、毛玉に改名してくれる?この子が私の辰馬だから」
ようやく花奈が目を開けて、男にそう微笑みかければ。
「アハハハハー、花奈はてんごがうまいちやー」
…冗談、じゃないからね?半分本気だからね?
私犬がいればいいの、あんたみたいなチョロチョロする人間のオスよりよっぽど…。
ね?辰馬。
とその柔らかな毛並みに顔を埋めればペロペロと唇を舐めてくる。
「おんし、ほりゃあちっくとヒドイがぁ、こりゃ辰馬よ、花奈の唇を舐めてええのはわしだけじゃき」
止めてくれぇと花奈の手を引いて、自分の懐に掻き抱く。
「犬に妬くくらいなら、とっとと帰ってきなさいよね?おかげで夕飯冷めちゃったよ、あ、チンして食べていいから」
言いながらまたベッドに横になろうとする花奈を抱きかかえる。
「…ちょっ」
「わし、飯より風呂がええ」
「勝手に入ればいいじゃない!!24時間湧いてるから、どうぞご勝手に?!」
「わかっちょる」
ニカァっと大きな口が笑っている、あぁイヤな予感。
「おんしも犬辰馬に汚されてしもうたから、はやいっさん風呂に入るろ〜」
「え?!」
「イヤとは言わさんが、わしの楽しみば奪わんとおせ」
ニカッと笑った毛玉はそのまま有無を言わさぬように、風呂に向かいながら私のパジャマを剥ぎ取っていく。
慣れた手つきに呆れちゃう。
脱がしながら、どこか艶めいた光を宿した瞳が近づいてきて。
無遠慮に口を割って入って来る舌を、意地悪く噛んでやる。
「あだだだだっ、消毒じゃきー!!犬辰馬のせいやきー!!!」
半泣きで私を見下ろしていた。
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