戦火に咲く花[2/6]
川でジャブジャブ頭を洗った。
絡みついた髪の毛は、丁寧に剥がしながら。
夏にはまだ少し早い晩春に。
川の水は冷たい。
「取れたかァ?」
顔をあげたそこにいたのは銀髪頭。
「何とかな」
ホラと差し出す手拭いを受け取って濡れた髪をゴシゴシと拭く。
「…悪かったな」
「ッチ、だったらもう二度と私の隣で餡子なんざ食うなよ」
「いや、それはアレだけど」
「あん?」
「く、食わねー、うん、お前の側じゃァ食わねー、うん!!」
引きつった顔で笑って、花奈の怒りをどうにか静めようとした。
「あんた、これが小太郎の髪だったら大変だよ?あのキレイな髪の毛に餡子だなんて」
「殺されるな、ザックリ」
「うん、違いない」
「でも双子なのに、何でこんなにちげーの?お前と小太郎って。性別まちがブベラァァッァ」
拳骨が鼻柱に食い込む。
「言うな、私だってわかっている。どう考えたって私の方が男っぽいことなど。」
悔しそうに唇を噛んで俯く横顔は、小さく膨れていた。
決して醜いわけじゃない、どちらかというと愛らしい顔をしているのだが。
弟の端正な美しい顔立ちとはまた間逆の。
二卵性とはいえ、こうも違うのか。
愛嬌のある垂れた大きな目、鼻や口は小振りだけれど、唇はポヨンとその愛くるしさを主張していた。
赤茶色のショートカットは銀時や坂本並に縮れており、誰がどう見ても小太郎と双子だなんて言われなくてはわからない。
小太郎みたいな顔で生まれたかった、というのが花奈の口癖なのだが。
「いや、言いすぎた、男には見えてねェから心配はすんな」
濡れたその頭をグリグリと撫でる。
「…私、小太郎のような男と結婚する」
「は?何だ、いきなり?!つぅか、オメーそれ近親相か「殺すぞ?」」
言いかけたとんでもない発言は花奈の低い声に掻き消された。
「誰が小太郎と結婚だなんて言った?小太郎の、ような!!ここ、重要ね?いい?」
「あぁ、そうゆこと」
「ったくアンタは飲み込みが悪いね、相変わらずバカだよ」
はぁぁっとため息をついて尚も話しを続ける。
「だってさ、アンタや坂本みたいなんと結婚したらさ、悲劇のハジマリじゃん」
「は?」
「何の罪も無い子がさ、こうして呪われた髪の毛を色濃く遺伝されちゃうわけさ。その点、小太郎や、晋助みたいなストレートヘアの遺伝子が交われば、確立は半分に減る」
晋助…って。
「…だったら、高杉と結婚でもしたらいいんじゃね?」
「例えの話だってば、別に私晋助のことそんな風に思ってないしね」
「お前はそうかもしんねェけど」
「何?何か言ったぁ?」
「いや、別に」
アイツがどう思ってるかを、オレが言う必要もねェしな。
「さっさと戻るよ、銀時。皆に出遅れちまう」
「おうっ」
ピョンピョンと兎が飛ぶように走る花奈の後ろを追いかければ。
幼き頃より、その走り方が変わってなくて笑ってしまう。
ヅラの姉、しかも双子。
幼馴染、ケンカ仲間。
後は何だ?天パ仲間で今は同志。
繋ぎ止めるような接点や、思い出や友情や、もうそんな在り来たりのものじゃ物足りねェって思ってるのは。
オレの方だけだろな。
唇を噛んで立ち止まったオレに気付いて、花奈は苦笑して手を振っている。
「もう、疲れたってぇの?走りやがれ、銀時っ!!」
その笑顔が、眩しくなってることにテメエ自身はまるで気付きもしねェ。
「先、行ってろ」
笑いながら、その眩しさを視界から逃した。
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