甘い罠[6/6]
…止めてくんないかな、あんな紛らわしい気の失い方。
本当に死んだってそう思ったんだから!!
あの後私の悲鳴で駆けつけた土方さんや山崎さんがすぐに救急車を呼んでくれて。
病院ですぐに手術と輸血を受けた沖田さんは。
どんだけの回復力なのか1週間後の明日にはもう退院らしい。
「何か食べたいものありますか?」
不貞腐れながらそう尋ねれば。
「焼きソバパン」
ダッシュで買いに行かされる。
買って戻れば、牛乳くらい、気を利かせて買って来いと更に走らされて。
毎日毎日これだから、もういい加減イヤなんですけど?
土方さんからの『総悟についててやれ』命令のおかげで連日病院通い。
面会時間いっぱいをここで過ごしている。
しかも…忘れているようです、あの気を失う直前のこと。
そんなこと直接聞けるわけじゃないけれど、この態度を見たらわかります…えぇ、オモチャ以下奴隷、でしょ、これ。
…私もアレ一瞬の気の迷いのような気すらしてきたし、転職やっぱ考えよう、今なら沖田さんいないし邪魔もされないんじゃない?!
チャンス到来?!
「側にいるって言ったのはアンタだろィ!!」
沖田さんが眠ったのを見計らって必死に【舞・叙部(マイ ジョブ)特集・健全な職場で働こう!】を読み漁る私の手をギュっと握る人。
「…」
狸寝入りだ、人を引っ掛けるのがどんどんうまくなってません?!
「言いましたっけ?」
「あ?」
「言いました!!うん、言いました!!沖田さんの側にいたいです!!」
「…フンッ、よく言えやした」
微笑んだその瞳があまりに優しくて。
ダメだってわかってるのに、胸が高鳴る。
こんなのまた引っ掛けかもしんないのに…。
握ったその手をグッと引き寄せて自分の胸元に私を抱きいれる。
「ここにいなせェ」
耳元で甘い声は時折聞くから媚薬になるんだ。
毎日は辛くて。
だけど、ほんのちょっぴり甘いから。
黙ってそれに頷けば落ちてくるのも甘いキス。
「…帰ったら楽しみにして下せェよ」
キス以上の企みの入ったその顔にすら、ドキドキとしてしまえばもうきっと。
この罠から抜け出すことなんかできないと思う。
多分、この先…。
正直言えば。
悔しいけど、ね?
…ハマってる。
fin
あかり様へ
コトノハ1万フリリク企画
2013/7/3 茅杜まりも
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