甘い罠[2/6]
入った初日からだった。
「今日からお世話になります、花奈と申します!!」
近藤さんに紹介されて皆の前でそう挨拶して。
「よろしく」
笑顔で歓迎された中で。
ただ1人無表情の人がいた。
同じ年ぐらいかな?可愛い顔した人だなぁって。
目が合ったので、微笑んでみた。
そしたら、ニヤリと笑った。
ニコじゃない、ニヤリ!!!
彼は私にツカツカと近寄ってきて誰にも聞こえないようにこう言った。
「雌ブタ、見ィつけた」
…そう、アレからだ、執拗なまでの彼の私へのイジメは。
毎日、泣きたい!!!
他の隊士さんたちが優しいから、まだ耐えられるものの。
実のところ、…本気で辞めたくなってきている。
「イチイチ、総悟に反応すっからダメなんだ」
土方さんはそうは言うけど。
土方さんだって反応しなくても毎日彼の餌食じゃないですか、しかも身の危険の。
私だって無視できるものならしたいです。
でも一度、たった一回無視しただけで。
「次無視したら、オカシヤスゼ?」
って、真っ黒い笑顔で言われたんですよ?!
警察が「オカス」って言います?普通!!
あ、ここ武装警察だ、普通じゃないんだ、そうだ…。
局長がストカだし、副長はマヨラだし、一番隊隊長はドS過ぎる…。
昼休みに【舞・叙部(マイ ジョブ)特集・健全な職場で働こう!】を読むのが日課になっている今日この頃。
勿論コッソリだ、こんなん読んでると彼に知られたら。
「へェ?健全な職場って、どんなんですかねィ?」
背中にかかる重み、私の肩に頭を乗っけたあの人が一緒に本を覗き込んでいた。
「わ、私、買出し行ってこなくちゃなんで」
慌てて立ち上がろうとしたのに。
その重みは更に重くなり、首に腕が回ってくる。
さながら、これ…沖田さんに後ろから抱きしめられているような格好?!
いや、違うっ?!
「ぐっ、ぐぇっ、ぐぇっ、喉!!喉が苦しいっ!!!」
優しくふんわり包み込むような後ろからの抱擁、ではなく。
これ、スリーパーホールドですよね?!
意識が朦朧とする直前まで持っていかれて、ようやく解放されたけれど。
一瞬真っ白になったからね?
お花畑で死んだ婆ちゃん手振ってたよ?
ゲホゲホと咳込む私に沖田さんは冷たい目で。
「こんなもん読んでんじゃねェ」
と【舞・叙部(マイ ジョブ)特集・健全な職場で働こう!】を持って行ってしまった。
転職すらさせてもらえないの?!
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