to remind[5/6]
ピンポーン、ピンポーン
半分電池切れ掛かった気の抜けた呼び出し音は花奈の性格のようで。
まだ直してなかったのかよ、と3ヶ月ぶりに聞くその音に苦笑した。
3ヶ月前に遊びに来たときは神楽や新八も一緒で。
『ケーキ作りすぎたから3人で食べに来て』そう招かれて。
こうして1人で来るのは初めてだった。
「銀さん?」
オレが立っているのに目を丸くして驚いて。
「えっと、あの、上がります?」
社交辞令で尋ねてくれた花奈に、
「お邪魔しまーす!!」とズカズカ上がりこんだ。
「あ、これ、いちご牛乳、飲むだろ」
「…これ、私の好物なんですか?」
「いや、オレの」
「そ、そうですか」
じゃぁ、今コップに入れますね、と台所へと歩いていく。
居間の壁には先ほど土方が言っていた男物の浴衣が吊るしてあった。
「銀さん?」
いちご牛乳を手にした花奈が戻ってきて、銀時の姿を見て戸惑っている。
「これオレにピッタリじゃね?」
いつもの白い着流しを脱ぎ捨て花奈の縫った浴衣に袖を通して笑いかければ。
「そう、ですね。うん、何かお似合いです、銀さん」
笑った花奈に安心して。
「これいいなァ、銀さん欲しいんだけど?」
そう言ってみた。
だけど、
「それは…ダメです。縫い目が汚いし、それに…」
きっとその後は、好きな人のためのもの、だから。
そう言うのだろうか。
「そ、そうだよな、何か土方くんから聞いたぜ?探してんだろ?これ渡す相手。銀さん、それなら探してやるよ?万事屋だからね、うん」
寂しくなりながらそう誤魔化すと花奈はううんと首を横に振る。
「もう、いいんです。だって私その人のこと何も覚えてないんですもん、その人がどんな人だったのかとか、全然…あ、でも」
浴衣を纏った銀時を見て。
「あまりにそのサイズが銀さんにピッタリなので、きっと身長や見た感じの肉付きは銀さんみたいな人なんでしょうね」
思いを遠くに馳せるかのようにそう言う花奈に、胸が苦しくなる。
…それさ、銀さんなんじゃねェの?
多分、さ、わかんねーけど。
銀さんのこと、だとそう思うんだけどね?
「覚えてないってことは、もしかしたら私にとってその程度で。その人が会いに来ないのは私もその程度にしか思われてないからで…」
え?
「記憶だっていつ戻るのかわからないし、だから、考えるのも止めたんです、その人が誰かなんて」
…会いに来なかったのは。
仕事が忙しいからだって、そう思ってたからで。
花奈が事故に遭ってたなんて今日まで知らなかったわけで。
けど、…そうなの、か?
思い出さないってことはお前の言うとおり、オレはその程度、だったのか?
なァ。
「どうされたんですか?」
黙ってしまったオレを不安そうに見上げる花奈は記憶を失くしてもやっぱり花奈のままだというのに。
ひどく遠く感じる。
無理…なんかな?
記憶、オレが戻してやるなんて、な。
…戻せるわけねェ、そんなん…わかってる。
だったら、な。
「だよな、アレだ、その男って多分そんなにいい男じゃなかったんだと思うよ、もしかしたらオレみてェなマダオでよ?本当はそんなに大事だなんて思うほどでもなくってさ」
「…」
「だからお前はさ、こっからもっといい男見つけろ!で、いつかソイツのこと思い出したら『何でアンタなんか好きだったんだろ』って笑ってやれ」
困ったような目をする花奈に手を伸ばして、ヨシヨシと頭を撫でた。
お前を過去から解放してやればいいだけだ。
今日からまた新しい人生、刻んでいけばいいじゃねェか、な?
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