to remind[3/6]
「さっきの」
「万事屋か?」
「はい、…銀さん。友達だったんですよね」
「…そーじゃねェ?」
友達つぅか、多分だけどな。
お前とアイツは恋仲だった。
だから。
「まァ、直に思い出すだろ?焦んな」
助手席に座る花奈の頭を傷に触れぬよう優しく撫でてやれば。
「…?」
不思議そうな顔で微笑んで。
「私、きっと前にも土方さんにこうして頭を撫でてもらった気がします」
…オレじゃァ、ねェよ。
教えてやんねェけど。
どうせ、いつかは記憶戻ってあのヤローんとこに嬉しそうに戻ってくんだろ?
だったら、せめて今だけは。
こうしてお前の一番側に、いさせろ…。
「土方さん?」
黙ってしまったオレを見上げるその無防備な瞳に、ヤラれそうで。
目を反らして。
「…案外、現場検証ってのも時間かかっちまってな、疲れただろ?」
「いいえ、私、覚えてないから。土方さんこそ、すいません。あんな場所で居合わせちゃったばかりに」
「あぁ…吹っ飛んでいくお前見てマジで焦った」
何、やってんだろな、って思った。
風呂敷包みなんか背負って、ピョンピョンと年甲斐もなくスキップしてる花奈の姿に。
相変わらず能天気そうだな、と苦笑して見ていたら。
一時停止無視して交差点に進入してきた軽トラに、ポォォォンと弾き飛ばされて。
慌てて駆け寄れば頭から血流して倒れてた。
手足が震えた、花奈がどうにかなっちまうんじゃねェかと。
努めて冷静に警察としての仕事を真っ当しながら。
病院で花奈が目覚めるまでは気が気じゃなかった。
『どなたですか?』
そう言われた時は別の意味で卒倒しそうになっちまったが。
「あぁ、そうだ…。後ろに積んであっから、お前のあの時持っていた荷物」
「え?」
振り返って、所々破れた風呂敷包みに手を伸ばして膝の上に乗せて、それを解く。
もしかしたら、花奈の記憶を呼び覚ますかもしれない、それを。
濃紺のそれを手に首を傾げている。
「私が縫ったんでしょうね、縫い目がひどい」
苦笑しながら、だけど何故かその目は愛しそうにその布を…男物の浴衣を撫でた。
「誰に縫ったんでしょうね」
寂しそうに微笑むのは、きっと気付いたからかもしれない。
記憶を失う前の自分には好きな男が、もしかしたら恋人がいたのだということを。
だけど、それをオレには尋ねなかった。
もし、オレならどうするか?
「それが誰なのか知りたくはねェのか?」
「…知るのが怖いです」
「あ?」
「だって、もしこれが恋人に縫ったものだとして、なのに未だにその人は私の前に現れない。好きな人だったとしても私がこうなっているのにも気付かないのだとしても。知っていたとしても。側にいないってことは、多分私はその人にとってそれほど大事じゃなかった、ってことでしょう?」
…それは…。
オレがアノヤローに連絡もしなかった、ってだけで。
アイツは時折街をブラついてオメエに会えるの狙ってやがったぞ?
罪悪感が重く圧し掛かってくる。
で、それがオレに縫ったもんだとは思っても無いオメエに、可能性はねェってことだけは、わかる。
このまんま一緒にいたら、可能性はゼロじゃなくなっかもしんねェけど。
…罪悪感だけが付き纏う。
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