一生フォロ方十四フォローでござる![1/6]
アイツとの出会いは、1年前。
美容室でのことだった。
久々に非番の日で、前髪もウザったらしく伸びてきてたのもあって。
駅前で配ってた美容室のクーポンを貰ってすぐに、出来たばかりのその店に行ってみた。
髪も切り終えてサッパリとして、目の上に熱いタオルなんか乗っけてもらって肩も揉んでくれるつぅから、じっと待ってれば。
「今日はどうなさいますか?」
と鈴を転がすようなキレイな女の声が隣で聞こえてきた。
想像するに、凛として背筋の伸びたキレイな女…。
ちょっと覗いてみようか、とタオルに手をやったその時だった。
「坊主にして下さいィィィィ!!!!!」
鼻の詰まった女の声が美容室いっぱいに響き渡った。
…おい、今何て言った?
たまらずタオルを取って横目で隣に座る女を見てみれば。
年は23、4?
優しい茶色でフワフワとした長い髪の毛の女が泣きじゃくっていて。
担当美容師の声だけキレイな女(見たら、ただの不細工だったことに気付いた)がオロオロとその様子を眺めている。
「お客様、あのっ、今何て?」
聞きなおしてみれば、やはり女の口からは。
「坊主にして下さい!!って言ってるの!できるの?できないの?」
鼻水垂らしながら美容師を睨み上げている。
「…できますが、その…おキレイな髪ですし、坊主というのは少し勿体無いかと思うんですが」
どうにか思い止まらせようと女を宥める美容師と。
周りはそれを固唾を呑んで見守るギャラリーたち。
…失恋、か?
「キレイ?どこがよっ?!天パでクルクルなんが伸びたら縦ロールって、おかしいでしょ?しかもボリューム出ちゃってフワフワしちゃって、もうこれどう見てもおかしいでしょ!!ありえないでしょ?!こんなんで外歩く身にもなってみなさいよ!!恥部露出して歩くくらい恥ずかしいのよ?だから私、振られるんだものォォォォ」
…あ、やっぱり…。
ワァァァっと顔を覆って泣き出す女と困り果てる美容室の面々。
こんなんじゃオレのマッサージなんてもんはとっくに忘れられてるようだ。
…帰るか。
立ち上がった瞬間、今まで顔を覆って泣いていたはずの女がガシッとオレの腕を掴んで引き止める。
「いいですよね?お侍さんはキレイな黒髪ストレートで」
…それ、確かあの銀髪天パにも言われたことあんだけど?
てか、八つ当たりだろ、完璧によォォォ!!
チラリと担当美容師を見れば『頑張って!!お侍さん!!』と拳を握ってオレにエールを送っているし。
周りのギャラリーの熱い視線も今はオレに向けられているようで、ため息をついた。
「…オレはアンタの髪、好きだけどな」
思ったとおりの事を呟いた。
「え?」
驚いたように顔をあげた女はまだ鼻水を垂らしていたので、袖から手拭いを取り出して手渡した。
「いいじゃねぇか、天パ。アンタみてェになりたくってわざわざパーマかけるヤツらだって多いんだしよ?」
その長い髪に手を伸ばして、その柔らかさを確かめた。
「オレァ、真っ黒だからよ、こんくれェ茶色い方が軽く見えて羨ましいし、それに柔らけェのな。猫ッ毛って気持ちいいじゃねェか」
いつの間にか涙は止まってるようで、ゴシゴシとオレの手拭いで顔を拭って。
「ありがとう」
そう笑った。
笑った顔は、めちゃくちゃ可愛いじゃねェか…、さっきまで鼻水垂らして泣いていた女か、これ?
「邪魔なら縛ればいいんじゃねェ?そうすりゃ気分転換に色んな髪型もできんだろ?だから、坊主は」
「ハイ…もう、しません…。お騒がせしちゃって、その…すいません!!!」
女は立ち上がって周りのギャラリーに美容師にそしてオレにお辞儀した。
すると周りはワァッっと拍手の嵐に包まれて、どうやら一件落着だ。
「本日はどうなされますか?」
もう一度そう尋ねられた女は、
「毛先を揃えてください」
そう微笑んだ。
オレと目が合うと恥ずかしそうに笑って、そして。
「お名前、お聞きしてもいいですか?」
そう尋ねられて。
「土方、と申す」
それだけ告げて店を出た。
それきり、のはず、だった。
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