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raindrop[2/6]

「ホットでいいか?」

黙ってそれに頷いた。

店の一番奥のあまり人目につかない席にあたしを座らせて、土方さんはマスターに手をあげた。

「ホットコーヒー二つと、後何かタオルくれ、乾いたヤツ、それと」

メニュー表を広げて、選べと言われたのは数種類のショートケーキ。

え?と土方さんを見上げれば、

「…選べねェなら全種類頼むぞ?」

と真顔で言う。

「え?あ、じゃぁチョコレートケーキで」

「オヤジ、それも頼むわ」

パタンとメニュー表を閉じて、ふぅっとため息をつく土方さんに。

目の前にあった灰皿を差し出した。

「あ?」

「吸いたいんじゃないかと思って」

「いいのか?」

「どうぞ?」

別に遠慮することはないのに。

あたしが働くファミレスにだって喫煙者はよく来るし、だからその匂いにも煙にも慣れている。

なのに、土方さんは煙があたしに流れないように吐き出す紫煙を横に流してくれていて。

その気配りがいつもの強持ての土方さんらしくなくて少し笑ってしまった。

「で、何で泣いてたんだよ」

「泣いてませんって」

「泣いてた!!…誕生日に泣くなんざ、何かあったとしか思えねェだろ」

「誕生日…、何で覚えて」

「お前が前に言ってたじゃねェか、6月の梅雨時で覚えずらい日付だって」

だから、ですよ?

だから覚えてる人なんか身内くらいで…。

友達にすらしょっちゅう忘れられていて。

…大事な人にもきっと忘れられてる…。

…ん?だから?

ケーキ、って。

何だかふっと心が温かくなって、マスターが持ってきてくれたタオルで濡れた毛先をトントンと拭き取っていった。

「珍しい髪型してんのな、そういうのもたまにはいいんじゃねェ?」

真顔でそんなこと言うからクスクスと笑ってしまう。

「んだよっ?」

怒ったように、笑った理由を問う土方に花奈は更に微笑んでしまう。

…今までは銀ちゃんと一緒だったから気付かなかったけれど。

いつもは怖い顔した土方さんにもちゃんと色んな感情や表情があって、楽しい。

「誕生日だしよ、お前はめかしこんでるし、ヤローとデートでもあったんじゃねェのか?」

「…ない、ですよ…」

思い出させられて、ず〜んと心は一気に深いとこまで落とされた。

…地雷踏んだか?

花奈の顔色を見て焦った土方が何か言おうとしているのを、花奈は苦笑しながら遮る。

「気使わなくていいです、…この間別れたんですよ」

「…悪ィ、知らなくて」

「いや、アレです、ホント!!あたしが振ったんですよ?振られたわけじゃないんで、そんな顔しないで下さいます?惨めになるんで」

「お前が、振った?」

首を傾げる土方に、何か文句でも?と口を尖らせれば。

「いや」

と苦笑して、そうか、ともう一本煙草を咥えた。

「だったら、お前…、花奈、今日暇なのか?」

「…バカに…してますよね?誕生日に男もいないって」

「ちげェよ!!暇なら、ちょっと俺に付き合わねェかって言ってんだよ」

「は?」

「他に用事があるってんなら、アレだけどよ」

「…じゃぁ付き合おうっかなァ、暇ですから」

何だか少しだけ嬉しい。

こんな日に1人はイヤだったから。

「15時半、か。よし、動くぞ」

「え?」

「見てェ映画があんだよ、行くぞ」

店の時計をチラリと見て、レシートを持つと会計へと歩く土方さんに急かされるように、あたしもその後ろへと続く。

「ご馳走さま、です」

「ああ」




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