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さよならなんかは言わせない[5/6]

ホームのベンチに腰掛けて腕時計とチケットを見比べていた。

17時45分発、故郷への特急電車がちょうど目の前のホームに入ってきて。

財布と携帯の入った巾着袋以外何も持ってない花奈が立ち上がる。

見送りなんて誰もいない。

職場にも事情を話して電話だけで辞める手続きを特別に取ってもらったから旅立ちの花束すら持っていない。

誰にも顔を見られたくないと思うせいか、あれ以来俯き加減で歩く花奈の前に。

人が立ちはだかるのがわかって。

右に避けると。

その人も右に、左に避けると左に。

一体、何なのだ?とそっと顔を上げて。

「っ、あ…」

怒ったような顔をして自分を見下ろす男が。

世界で一番逢いたかったその人だということに涙が溢れる。

「どこ行く気ですかー?」

「、あ、あたし、お見合いが決まって故郷に」

慌てて涙を拭って咄嗟についた嘘。

「ヘエ?オレに何も言わずに?何の相談もナシに?」

「…」

「帰さないんで!!」

「え?!銀ちゃんっ?!」

急に花奈の手を引き駅の改札口に向かって歩き出す銀時に引き摺られながら。

「ダメ、ダメ!!この便が今日最後の便で」

「アア?知らねーよ、んなもん。帰らなきゃいいじゃねえか」

「やっ、だってあたし、もう」

「あ?家ねェんだもんな?今頃神楽と新八が大家に言われてお前のアパートの荷物片してる頃だし」

「っ?!」

「万事屋に依頼来たんだよ、お前の部屋の荷物全部処分してくれって!!!」

花奈の手から切符を奪い駅員に手渡す。

「キャンセルしまーす!」

「え?!しませんっ、やだ、銀ちゃん、待って、待ってェェェ!!!」

面倒臭いとばかりにジタバタする花奈を脇に抱えて改札を出た銀時は万事屋への道を歩き出す。

「やだ、銀ちゃん、お願い降ろしてっ、恥ずかしいっ!!」

「逃げねえって約束すんなら降ろしてやってもいいですけどォ?」

「逃げないからっ、お願いっ!!!約束しますからァァァッ!!」

お願いお願いと懇願するとようやく地面へと降ろしてくれて。

着乱れた着物を直してると足元に落ちているのは…。

「顔、見せて?」

「やっ」

暴れたせいで落ちてしまったガーゼ。

化粧もしてない治りたての傷はまだ赤く縫い目も目立っている。

顔を覆ってしゃがみ込んでしまった花奈はひどく小さく頼りなさげで。

「何でダメなの?」

声が間近で聴こえるのは銀時が花奈と同じように目の前にしゃがみこんで覗き込んでいるから。

それに気付いてしまえば尚更顔などあげられないのだ。

だって…、自分は今までの自分とはもう違ってしまってるのだから。

「勝手に付き纏って勝手にいなくなろうとするなんてな、オレを振り回すたァ随分いい根性してんじゃないの?花奈チャン?」

ホレと花奈の頭を両手で挟み上げて無理やりに上を向かせると、右頬だけは見られないようにと花奈もまた手は退けず。

「全部事情知ってっから!!」

無理やりにその手を退けて見えたその傷に目を見張る。

10センチはあろうという傷が目の下から真っ直ぐに赤く…。

見られた花奈は見る見る涙を溢れさせた。

「痛かっただろ…」

そっと傷に指を添えれば花奈はもう諦めたように銀時を見上げているだけで。

「…大丈夫…」

泣きながらも微笑んで強がるその言葉に花奈の辛さが隠れている。

「大丈夫なわけねェだろ」

必死に自分自身誰にも寄りかからないようにとするその姿に、苦しくて。

その傷のある頬に唇を寄せた。


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