さよならなんかは言わせない[2/6]
「最近、花奈さん見かけませんね」
新八がそう言いだしたのは花奈を見かけなくなってから1週間。
「あー、そうだっけ?」
まるで今気付きましたけど?の体を装って椅子に深く腰掛けて足を机に乗せた。
「銀ちゃんに飽きたアル。大体花奈もさっちゃんもオカシイね!何でこんなマダオが好きなんだか訳がわからないアル!まだ公園のマダオの方がマシネ!それにようやっと気付いたアル、花奈は!」
「…いや、神楽さん、あのさ?公園のマダオよりはちっとマシだと思うんですけどォ?」
「いいや公園のマダオの方が自立できてるアル!自給自足してちゃんとその日の生活を過ごしてるアル!!」
「…悪かったって!!豆パン腐ってたからって八つ当たりすること無くね?!」
朝起きて食べようとしていたなけなしの豆パンにカビが生えていた、それしか飯はなかったってのに。
「花奈が来れば何かしらご飯作ってくれたアル。何の取り柄もないマダオでも見捨てずに尽くしてくれる女なんてもう二度とできないネ?!」
「ちょ、違うからね?!別に銀さん振られたわけじゃないしね?!」
「今日は依頼入ってますよ、二人とも!夕飯は食べられそうだから、頑張りましょう!!」
気を利かせた新八が二人の間に割って入ったものの。
「それにしても花奈さん、本当にどうしたんでしょうね、何かあったわけじゃ」
思い出したのように呟く新八に銀時もドキンとした、けれど。
「オレに平穏が戻ったってわけだ、うん!猿飛だけでも手一杯だったってのに」
あー良かったァなんてクルリと椅子を回転させて格子窓の向こう、空を見上げる。
『あたし、銀ちゃんと出会えて本当に良かったぁぁぁ』
またあの笑顔が目に浮かんだ。
***
出会いは1ヶ月前、花奈からの依頼だった。
ある日万事屋のドアを叩いた花奈は。
初対面の印象は大人しそうな可愛い子。
顔真っ赤にして涙目で。
『…捕まえて欲しいん、です』
『何を?』
『下着泥棒ですっ』
聞けば最初は風で飛ばされたのかと思ったらしいんだが、次の日も無くなっていた。
怖くて1週間は外に出せずに、ようやく昨日また外に干せば無くなっていたという。
花奈のアパート内に潜みベランダのカーテンの隙間隠れるように見張る。
餌の下着を干してたったの10分、やってきたのは中年の腹の出たオッサン。
『オッサンさァ、覚悟は出来てるよね?』
スパンとベランダ開けると、慌てて逃げようとしたオッサンに飛び蹴り食らわして。
伸びたそれを、縛り上げてすぐに警察に引き渡した。
『っ、ありがとうっ』
全てが終わった後泣き崩れた花奈を泣き止むまで放っておくこともできず。
夜になるまで側についてた。
…そっからだ。
懐かれて所構わず追い掛け回されるようになっちまった。
猿飛より性質が悪かった。
外に出ればすでにスタンバっていて、振り切るまで付き纏われる。
銀ちゃん、大好きを連呼して腕を絡まれまるで恋人のように歩く花奈を。
『ダァッ、しつけー』
そう言って足蹴にしてたってのに。
ある日突然それがパッタリ止むとなんちゅうかその拍子抜けしたってのか。
…まァ、あれだ。
花奈も単にあれは助けられたから。
怖い思いから解放してくれたから。
その時だけの擬似恋愛みてえな思いだってこと、ようやく気付いたんだろな。
…コレでいいんだよ。
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