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さよならなんかは言わせない[1/6]

万事屋の階段を駆け降りて、電柱の影に潜む。

ちょっとだけ顔を覗かせてキョロキョロと辺りを見回して、ホッと一息をつく。

傍から見れば挙動不審に見えるだろうけれど。

この出掛けの儀式はここ1ヶ月の銀時の日課であるのだ。

「…さァて、と」

誰もいないのを確認し歩き出した次の瞬間。

タッタッタッタッタと聴こえてくる足音にピタッと立ち止まり。

恐る恐る振り向いた。

「…アレ?」

ジョギングしてるだけのオジさんが横を通り過ぎてく。

首を傾げながらも、それでも細心の注意を周囲に払いながら歩き出す。

曲がり角の向こうの気配を探ってみたり。

道端に置いてあるゴミ箱をちょっとだけコンコンと足でつついてみたりしたけど。

「…?」

何の障害もなくパチ屋に到着。

そしてボロボロに負け越して帰るまでも何も無し。

いやいや、こんなんで安心してらんないよ?

家に帰るまでが遠足です、って遠足じゃねえけど、などと。

ひとりごちながら朝と同じように警戒しながら…。

何のことはなく万事屋へと帰り着いたのだ。

階段を上り、もしかしたら玄関の中に最早潜んでたりして?と。

ドキドキしながら静かに戸を開けると。

「銀ちゃん、おかえりネ!また負けたアルか?」

神楽が負け犬でも見るような蔑んだ目で銀時を迎え入れてくれただけ。

「負けてません〜!!寄付してきただけですゥゥゥ!!明日寄付を貰いに行くんですゥゥゥ!!」

精一杯の負け惜しみを返しながら玄関先に腰掛けてブーツを脱いで。

その瞬間にピトッと背中に張り付いた温もり。

…だろ?

やっぱ待ち構えてたんじゃねえか。

半分呆れながら振り返ろうとしたその時。

「おかえりなさい、銀さん〜!ああ銀さんの匂い銀さんの温もりっ!!スーハースーハースーハー!!銀さん、銀さん、銀さぁぁぁんっっっ!!」

そう言って銀時の手からブーツを奪い匂いを嗅ぎ悶える女が一人。

「…どっから湧いてきてんだ、オイ」

さっちゃんがウットリと銀時を見上げていた。

眉間に皺を寄せ猿飛からブーツを奪い、玄関を開けてブンとそれを放ると。

「いやんっ!!銀さーーーーーん!!」

犬のようにブーツを追いかけ飛び出していく猿飛の背中を見送ってから。

ガラガラピシャンと思い切り玄関の扉を閉めて厳重に鍵をかけた。

「…ったく、オメーじゃねェっての」

そう呟いてから、首を傾げる。

だったら、誰を待ってたんだ?

いやいやいや、全然待ってねえし。

だけど。

『銀ちゃぁぁぁぁんっ!!』

『銀ちゃん?!』

『銀ちゃん、大好きィィィ!!!!』

浮かんでくるのは今日一度も見ていないあの笑顔。

「…何考えてんだ、オレ」

自分自身が一瞬考えたことに驚いてそれを振り払うようにガシガシ頭を掻いて。


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