ずっと、ずっとね…3[4/5]
「…ズルイぜよ、花奈は」
言われて気付くのは、引き止めるように辰馬の腕に伸びた自分の手と。
頬を伝うもの。
唇を噛み締めて止めようとするのに。
辰馬の言う通り幼馴染でいいはずなのに。
「ほがな顔されるとわしゃ頭がわりぃから、勘違いしてしまうぜよ」
困った顔で眉を落として私を見下ろす辰馬に必死に笑って誤魔化そうとしても。
「っ…、ゴメ…けど」
線を越えない場所で踏みとどまろうとしてる自分が。
…だったらいつかその線の先で誰か知らない人にこうして優しくしてる辰馬を。
見てしまうことになるんじゃないかって。
どっかで泣いていて。
「辰馬…」
伸ばした手が辰馬の頬に触れて、そして髪の毛に触れて。
グシャグシャにそれを撫でてから。
自分の胸元に引き寄せる。
「花奈?!」
驚く辰馬の声が胸元で聴こえたけれど、あのね…。
「今だけ…、こうしてていい?」
「花奈…」
「明日になったらちゃんとまた幼馴染に戻るから、だから…今だけこうしてて」
この大きな背中もこの匂いや温もりも。
そう今だけ、辰馬を一人の男の人として…。
今だけ、今までで一番側にいさせて…?
「…今ばあというのははちっくとズルいと違うやろか?」
辰馬の手が私の背中に回って体重をかけないように私を抱きしめてくれる。
「聴こえゆうか?わしはこがなんちゃーじゃドキドキしちゅうが…。」
伝わるその鼓動に頷くと見下ろされる形で私の顔の横に手をついて。
「高杉になんぞ渡しとおない…、何で高杉なんぞと…」
悔しそうに唇を噛んで、私の唇を拭うようにさすって。
「花奈の気持ちが高杉にあるちゆうんなら諦めようと思おた、やけど…」
試すかのように少しだけ触れたのは。
辰馬の唇…。
「好きじゃった…、幼馴染でいいらぁて…嘘やか」
「辰馬…」
見上げた辰馬の目は真剣で、怖いくらい青く光っていて…。
「…あの、ね…辰馬、私高杉とは…」
「今ばあでいい、今ばあはわしのことばあ思ってくれやーせんか?」
私の声を遮るように何度も重なる口づけが深くなる。
絡めあう指先も全部辰馬に溶けてしまいそうで。
怖くって…。
「っ、すまん…」
泣き出した私に気付いて離れようとした辰馬を。
離れないように抱きしめた。
「、違うからっ…高杉とはそういう関係じゃなくて」
「…へ?」
「まだ、その何でもなくって」
「まだ、…まだ、ってことは花奈は高杉のこと」
「…、友達として好きなの…、本当に好きになれれば良かったんだけど」
高杉、ゴメン…。
やっぱり、無理なんだ。
例え今だけでも一度でも超えてしまった線を私は二度と忘れることなんかできなくて。
明日ちゃんと気持ちを伝えよう。
好きなのは辰馬だから、と。
「ダメやき!!しょうまっこと高杉のことば好きにじょきぁて、絶対にダメやきっ!!」
フルフルと顔を横に振って、ハタと気付いたかのように私を頭の先から足先まで見回してから…。
「…じゃったら花奈はまだ高杉のがじゃ」
「っ、ち、違うからっ」
どこまで想像してたのよ、バカッ!!
ポコンと頭を叩くと。
ア、イタと辰馬が笑い出す。
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