ずっと、ずっとね…1[4/4]
「オイッ、轢かれてェのか?」
グイッと後ろから手を退かれて尻餅を突きそうになった私を支えたのが。
「高杉…」
高杉の胸にもたれる様な状態で見上げると。
不機嫌そうに眉間に皺を寄せていた。
「ボーッとしてんじゃねェ」
「っあ…」
目の前の信号は赤で、絶えず車が走っている状態…。
私、何やってんだろう…。
朝から抜けない頭痛のせいでボンヤリと歩いていたようで…。
「ありがとう」
慌てて高杉から離れて御礼を言うと、別に、と目を反らして私の横に並ぶ。
信号が青に変わっても高杉は私に歩幅を合わせてくれてるようで。
だけど私としてはどうしてもその横に並ぶことができなくて少しずつ歩みを遅らせていれば。
「ッ、テメエのせいで遅刻すんだろが」
振り返った隻眼は緑色に鋭く光る。
っ怖っ!!
「先行っていいよ」
「あ?」
「私、足遅いんだ、だから」
「ッチ、面倒クセェな」
いきなりツカツカ近づいてきた高杉が私の手首を掴んで早足で歩き出す。
「っ、ちょ」
「ほっといて事故にでもあったら目覚め悪ィんだよッ、顔色悪ィし!!」
ズンズンと学校に向かって歩く高杉に引き摺られていくけれど。
私たちを見る周りの目が痛いんですよ。
高杉は辰馬と同じバンドの中ではギターをひいている。
妙に色気があってまるで高校生ではないような風貌で。
…きっと年上の彼女とか人妻にでも飼われているんじゃないか、と噂されるほどのそれは。
勿論学校の中でも人気があって辰馬以上にモテてるようで。
屋上で卑猥な行為をしていた、とか色々噂も出まくってるけれど。
クラスでは大人しい方だ。
割と…。
うん、本当の高杉のことはよく知ってるつもりだから、そんなの噂にしか過ぎないのはわかってる。
授業中はボーッと窓の外眺めてるか、寝てるか、なのに学年10位に必ず入るほどの成績の良さ。
頭もキレる、性格がたまにキレてるだけじゃなくて、ね。
だから目立つ、良くも悪くも人からの注目を浴びるこの人とパッと見手を繋いでるかのような今のこの状態は非情に痛い。
「歩くから、自分でちゃんと歩けるからっ!!」
無理やりに手を引っ込めると又睨まれたから、すごすごと高杉の隣を歩き出す。
「あのバカはどうしたァ?」
「辰馬?さぁ?」
「毎朝アレを起こして連れてくんのがお前の役目じゃなかったのか?」
クックとバカにしたように笑う高杉に。
「いつもいつも一緒みたいに言わないでよね」
…昨日の今日だ。
いつもと同じように起こしになんて行けるわけなくて。
ほっといたら多分遅刻なんだろうけれど、…知らない。
「いつも一緒じゃねえか。最初はあのバカの女かと思った」
「違いますっ!!!」
「ック、だな。アイツにゃ勿体無ェ」
勿体無い?!
思わずドキンとして足を止めると高杉が不思議そうに振り返っていて。
「どうした?」
いや、どうしたもこうしたも。
色気あるそんな顔でそんなこと言われたら大体の女の子は固まると思うよ。
「っ、何でもない」
危うくポォッと自惚れかけたけれど。
ズキッと襲ってくる頭痛に我に返る。
「…最近、来ねえのな?練習やらライブやら」
「ああ…、だって行ったところで辰馬のファンの子らに睨まれそうだし」
「違ェねえ、どこがいいんだか、あの毛玉の」
「そうだよね」
ハハッと笑って誤魔化す。
だって、いいとこは、あるんだもん。
それを人には言いたくないだけで…。
「たまにゃァ来いよ、遠慮しねえで。オレが呼んだ客として」
「そっちのが無理だわ、高杉ファンに刺される、絶対!!」
恐ろしくてプルプルと頭を振ると高杉が又苦笑いしてるようで。
「…でも、来いよ、その内。…お前がいねえとつまんねェし」
一瞬見せる真顔にドキンとまた胸が高鳴るけれど。
「気が向いたら、ね」
そう言って目を伏せたのは。
…いつからだっけ。
辰馬についてバンドの練習に行きはじめたまだ1年生の頃。
練習の合間にジュースを買いに行く私に高杉がよく付き合ってくれて。
自然と仲良くなってた。
学校じゃあまり話さないけれど、時折電話しあったりして。
実は辰馬以外に一番仲の良い男友達、って。
そう思ってたのに。
半年ほど前からほんの少し高杉の接し方が変わってきたのがわかった。
それは辰馬に告白してくる女の子が増えてきた頃からかもしれない。
ある日またそれを見て立ちすくんでいた私の手を。
高杉は見えない場所まで退いてくれて。
何も言わずに私が泣くのを黙って抱きしめてくれていて。
…あの日、一度だけ。
『泣くなよ』
触れるだけのキスは幻だったように思えたけれど…。
高杉の気持ちは多分何となくだけど…わかっていて、応えられないまま。
友達のままで…。
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