ずっと、ずっとね…1[3/4]
「これから練習?」
「お、おう。花奈は真っ直ぐ帰るんかいのう?」
「そうだけど」
「暇なら練習見に来たらどうじゃ?」
「遠慮しとく、誤解されそうだもん」
「誤解…?」
思わず出てしまった自分のその言葉に墓穴を掘ってしまった。
辰馬がじっと私を見下ろしていて、何だか居たたまれなくなる。
「だ、って、ホラ!!私なんかと一緒にいたら誤解されない?モテるみたいですし?」
「き、聞いちょったんか?!」
「別に聞きたくて聞いてたわけじゃないから!!」
やだやだ、何だかこれじゃ言い訳がましいじゃない。
「参ったのう」
照れたように毛玉のような髪に指を絡めてガシガシと頭を掻いている姿が。
「良かったねえ、あんたみたいなバカでもバンドさえやってればモテる世の中で」
…、こんな憎まれ口利きたいわけじゃないのに。
どうしても。
物心ついてから多分一番側にいたはずの辰馬が。
高校生になってから随分と遠くにいってしまったようで…。
それが悔しくて…。
「アハハハハー、そうじゃのう!何ちゃーじゃ取り柄は持っておかんとのう」
バカみたいな笑い声にため息が出る。
…背が伸びた、高校に入ってから、どんどん。
同じクラスになった銀時や高杉、桂くんとバンドを組んでベースをやり始めて。
サングラスなんかかけだして。
そしたら急にモテるようになった。
…そしたら急に辰馬が遠くの人に思えてきた…。
辰馬はそんな私の思いなんか知らないから、幼馴染という距離を変えずに詰め寄ってきてくれたけれど。
「…そろそろ一人に決めたら?」
さっきの子が初めてじゃない。
今までだって何度も告白されてるのは知ってる。
「そうじゃのう」
私の言葉なんてちゃんと受け止めてやしない軽い返事。
「辰馬が一人に決めないから、ああやって言い寄られるんだよ?誰にでもいい顔して気のあるフリして」
「…わしゃ、そんなことしちゃーせん」
…、わかってる。
ただあなたの笑顔が誰よりも人懐こくて、温かいからだって…。
「それでも、そう見えるんだよ…」
あなたが誰かに笑いかける度に。
きっと辰馬のことが好きな女の子たちは不安になるの。
「…花奈、にもか?」
「ん?」
「そう見えちょったがか?」
面と向かって聞かれたそれに。
ただ頷くしかできなくて、そしたら。
「…そうか」
そう呟いて、ポリポリと頬を掻く。
…それは、困ったな、っていう辰馬の癖。
小さい頃遊んでいて何かの拍子に私が泣いたりなんかすると、そうして側でずっと私が泣き止むのを待っててくれた。
困ったな、って頬を掻きながら…。
ねえ?
今、何で困ってるの?
「花奈は…」
「何?」
「…好きな男がおるんかいのう?」
辰馬から今までそんな質問されたことなくって驚いて思い切り頭を振った。
すると。
「花奈はわしのことどう思いゆうか?」
驚いて見上げた顔は何だか頬が赤い気がしたけれど。
心臓がドキドキと早く脈打って。
今は一刻も早くこの場を立ち去りたくて…。
「辰馬は…幼馴染でしょ?他にどう思えって言うの?」
場を濁すように微笑んでいたら。
「…そうじゃったのう」
頬を掻いたままで辰馬が笑うから。
「じゃ、先に帰るね」
そう言って思い切り辰馬から顔を背けて逃げたんだ。
だって、こんな変な空気になったこと今までなかったから。
サングラスの奥で青い目がどう私を見下ろしてたかなんて。
わからないのに。
辰馬に見つめられていると思っただけで。
…ドキドキして…それから、キュンと心の奥が苦しくなっちゃったんだもの…。
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