ずっと、ずっとね…1[2/4]
「辰馬先輩っ!!」
よく知った名前が呼ばれているなと、振り返った先で。
一年生らしい可愛いポニテの女の子が帰ろうとしている辰馬のことを呼び止めていた。
どうやらその女の子とは初対面ではないらしく辰馬も笑顔で手を振っていて。
思わずその仲良さげな光景にそっと身を隠してしまう。
「今日はバンドの練習ですか?」
「そうじゃ、見に来いや」
ああ、辰馬のバンドのファンの子か。
「いいんですか?!」
「おまんが来ると銀時がテンション上がってぼっちりええが」
「…先輩、は…?」
その女の子の必死さが伝わってきて思わずドクンと胸が跳ね上がる。
これ以上聞いちゃいけないってわかってるのに、只管にそこにじっと留まり身を竦めるのだけが精一杯。
「わしも嬉しいぜよ」
…、そう、なの…?
「先輩、わかってない」
「ん?」
「私は銀時先輩じゃなくって辰馬先輩がいるから行ってるんですよ?」
「…、それは、その」
辰馬の声が上ずったのがわかった。
どれだけ鈍い辰馬だって、そこまで言われたらわかるだろう。
「先輩のことが好きです!!!付き合って下さいっ!!!」
…ああ、やっぱり…。
フラッと力が抜けてその場に座り込んだ。
辰馬は何て応えるんだろうか…。
「…わしは」
「花奈先輩とはただの幼馴染なんですよね?」
何でそこに私の名前?!
「そうじゃ」
辰馬の返事に何の感情もわかないのはその通りだから。
…ううん、何でだろ?
ほんの少しズキッとするよ…。
「好きな人がいないんなら、お願いです!考えてくれませんか?」
「…」
「ずっと…入学式から、なんです。辰馬先輩たちの新歓のバンド演奏見てから…。だから…いきなり断わったりしないで…?せめて一晩ぐらい考えて下さいっ」
「っ、泣きな」
「私と付き合ったら楽しいですよ、絶対!!クラスじゃ面白いで通ってるし、割と尽くすタイプだと思うんです、それにっ…」
「…ちゃんと考えるから、な?泣きな?可愛ええ顔が台無しになってしまうが」
…彼女の声がくぐもってるのは、きっと。
辰馬が抱きしめてるからなんだろう。
靴箱を挟んだ格好で具合が悪くなってしまったかのように動けない私と。
向こう側では可愛い後輩を抱きしめて慰める辰馬がいると思うと。
…何だか情けなくて、恥ずかしくて。
せめて辰馬にこんな姿を見られないうちに、と立ち上がったのに。
「、明日の放課後、ここで待ってます」
そんな彼女の声にまた身を竦めるしかなくて。
玄関の外、夕陽にポニーテールの背中が駆け出していくのを見守ってから。
ようやく自分の下駄箱に手を伸ばし靴を履く。
「花奈っ」
何だか焦ったような辰馬の声が背中からして。
振り向くとすぐ後ろに辰馬が立っていた。
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