陽だまり2[4/4]
「…食ったらきっと…二度と忘れられなくなっちまう」
十四郎さん?
「…風呂上がったら少しでも食うか、って思ってても。何でか食うことなんかできねえで。朝だって、お前がせっかく作ってくれた飯を。朝は食わねえからって逃げるように家を出て」
何故、十四郎さんは優しく私の頬を撫でてくれてるのだろうか。
「花奈、…お前はオレのこと…、好きだったんだよな?」
そう問われて、どうせ最後だから、と。
素直に頷くと。
「わかってたのに…、悪かった、突き放すような真似ばっかして」
…、十四郎さん?
何故、こんなにも優しく私を抱きしめてくれるのですか?
「私を…重ねておいでなのでしょう?だから、優しく…」
「違ェ…、いや、全部違うわけじゃねえな…。気になったのは確かだ、アイツと似たような病、似たような顔色。だから余計に気になって大事にしてえと思った。…アイツにしてやれなかった分」
ほら、やっぱり…。
「本気で惚れたら、お前の寿命縮めちまうかもしんねえなって…そう思ったから」
「…え?」
「抱きてえなんて思っちまわねえように、遠ざけるしかなかったんだよ。細すぎんだよ、この肩も…背中も」
なぞる様な手つきで、まるで愛しんでくれるように私の身体を抱きしめる。
「…撤回、してもいいか?花奈…」
撤回?
見上げると十四郎さんの目が弓のように微笑んでいるように見えた。
「…大事にしてやれねえかもしれねェ、側にいたら又こうしてお前を泣かせちまうかもしれねェ」
そう言われて気付くのは。
さっきからしきりに十四郎さんが私の頬を撫でていたのは。
涙を止めようとする行為だったということ。
「だけど、花奈。…お前の笑顔が出迎えてくれるだけで。いってらっしゃいと送り出してくれるだけで。ホッとすんだよ…、それをずっと見ていたくて、だから…」
だから…、だから…?
ボヤけていく十四郎さんの優しそうな顔。
「…もうちょっとだけ…、お前がオレに愛想尽かすまで…、ここでオレのこと待っててくれねえか?」
「っ…、そんなバカなこと」
「ッ?!」
「十四郎さんに愛想尽かすなんてこと、一生…」
「…花奈」
「っ…はい」
「好きになってもいいか?」
「…十四郎さ」
「…いや、もうとっくにお前に惚れてた…、この笑顔に」
気付くと泣きながら笑っていた私の頬にそっと触れる唇。
「私で、も」
「花奈しかいねえだろ、他に誰がいんだよ」
人並みの容姿であなたにはきっと不釣合いで。
それでも…?
不安になって見上げた先で、フッと笑った唇がそっと。
私の唇に触れた。
あの日初めて手を繋いだときのような温かな、感触…。
静かな寝息が聞こえる。
私の側で、こうして寝顔を覗かせてくれる人が。
あなたで良かった。
出会いはきっとあなたにとっては最悪だったかもしれないけれど。
私にとっては、あなたに出会えたことが幸せだったんです。
まだ怖いから、とただ私を抱きしめてだけ眠ってくれる優しくて世界で一番愛しい旦那様。
ようやく居場所見つけられたみたい。
「おやすみなさい、十四郎さん」
気付かれぬようにそっと頬に触れて。
私もまた腕の中で目を瞑る。
…そうだ、…まだ新婚旅行も行ってなかった。
あなたの誕生日にはどこか二人で。
デートしてみたいな、なんて。
目覚めたら…言って、みよう。
笑顔で微睡んで…。
fin
2014/5/5 コトノハ 茅杜まりも
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