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陽だまり2[3/4]

翌日医師の診断で退院の許可が出た。

そのまま何も告げずに退院をして。

久々に帰った部屋は、出て行った時と何も変わりは無いように思えたけれど。

それはきっと十四郎さんが気を使って散らかさないようにしてくれてたからだろう。

室内に干されていた少し皺の残るシャツにアイロンをかけて。

拭き掃除をし掃除機をかける。

夕飯の支度は何にしようか、と冷蔵庫を開けたところで。

ガタンと大きな音がして。

「花奈!!!」

玄関から走ってくる十四郎さんに驚いた。

「お前、退院するなら一言」

「申し訳ございません…、退院してもいいと言われたらすぐにでも家に帰りたくて」

「それにしたって…。何で休んでねえ?動きすぎだ」

部屋の様子を見回して十四郎さんの眉間に皺が寄る。

「お夕飯、お魚でも宜しいでしょうか?買い物に行ってないので、それぐらいしか」

「んなもの、店屋物で構いやしねえんだよッ!!お前の身体が」

「…平気です」

「バカ、肺炎こじらせて死ぬとこだったんだからな?いくら退院したからってすぐに今までどおりにだなんて」

「…私は…、私は平気です、死にません」

そう呟くとギョッとした顔で私を見下ろして。

「…知ってるのか?」

もう隠す気もないらしい。

「知ってます、いえ、知ったばかりなんですけれど。今まで気付かなくて申し訳ございませんでした」

知ったところで私が何をしてあげられたわけでもないでしょうけれど。

「っ、何でお前が謝る」

「…だって」

いつもいつも寂しそうなお顔をしてらっしゃったのに。

それに気付いていても尚、あなたを求めた自分の浅はかで貪欲な愛という名の我侭に。

求めてしまっていただけだった、自分が申し訳なくて。

「私なら平気です、弱いかもしれませんが死ぬことはきっとありません。だから、もうそんな風に心配なさらないで下さい」

重ねてなんか見ないで…。

あなたの負担になるのはもうイヤなのです。

私は今まで通り、ただここに。

あなたの側にいられるだけで。

名前だけの妻であっても…。

「それは、迷惑だからか?」

「いいえっ」

慌てて首を振ってそれを否定しても。

「…すまねえな、嫁ぎたくもねえ場所に来させちまって…その上、こんな…。なァ、どうしたらお前を笑わせてやれる?見合いの時みてえに、笑っててくれるだけで…」

な…に…?

ズイッと詰められた距離に。

逃げる間もなくて。

吐息がかかりそうなほどに近くにある十四郎さんのお顔に。

浮かぶその苦悩の表情を見ていられなくて。

俯いてしまった。

「…、オレたちゃ、どうもうまくいかねえみてェだな」

落ちてきたその声に反応するように。

俯いて見つめた自分の指先が震えている。

震えがバレてしまわないように、ギュッと結んで。

「花奈、ここにいんのが苦しいなら…離婚しねえか」

…、何で…。

「どうもオレはお前を大事にできねえようなんだ」

してもらってるのに、あなたのぶっきらぼうな優しさは今までだってずっと伝わっていたのに。

そんなに私の事がイヤなら、そうだとハッキリ仰ってくれたらいいのに。

「わかりました…、父には私から伝えます。大丈夫です、私の方からだと言いますので援助を打ち切ることはないと思います」

ああ、もう私は。

この人の形だけの妻でいることすらも許されないのだ。

たった1ヶ月。

ほんの1ヶ月。

それでも、側にいれたことは幸せでした…。

最後に、少しだけ我侭言ってもいいですか?

「ただ…せめて、今夜だけここにいてもいいでしょうか?それと、一度でいいから私の作ったご飯食べてくれませんか?」

それならきっと笑顔で、あなたの元を離れられる。

抱いて欲しい、なんて言わない。

いや言ったらきっと叶えてくれそうだけれど、それは責任感でのこと。

…あなたの心はもうずっと、半年も前に置き去りにされたままで。

遠くを見ているのでしょうから…。

「ダメでしょうか?」

応えてくれぬ人に、仮面の笑顔で微笑んで目を見てもう一度尋ねた。

あなたの前では泣かないと。

泣いたらきっと困らせてしまうから。

結婚した日から、それだけは守ってきたつもりだったから。

最後まで笑顔で。


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