「クルルッ…」
「喋んじゃねェよ、ククッ」
私の知ってるクルルは、「ペコポン人なんか大嫌いだぜ、ククッ」が口癖で、陰湿で意地悪で私のことなんか全然相手にしてくれなくて、いっつも不気味な笑いを浮かべてる。そんなクルルのことがずっと大好きだった。
「ク、ルル…」
「お願いだからもう喋んじゃねェ」
「泣かないで」
「泣いてねェ」
そう言ったクルルの顔は眼鏡でよく見えなかったが、いつもの不気味な笑いはなく、クルルの小さな肩はわずかに震えている気がした。昨日の夜、地球に新たな侵略者たちが現れた。そいつらはケロロたちみたいにドジじゃないし、優しくもなかった。地球はどんどん侵略されて、とうとう私たちの街にも侵略者はやってきた。そんなとき、来るはずのないクルルが、私なんか大嫌いだといつも言っていたクルルが私を助けに来てくれた。
「ッ……」
「おい、大丈夫か?ククッ」
せっかく大好きなクルルが私のために、私を助けにきてくれたのに、さっき奴らに撃たれた傷口からは見たこともないぐらいたくさんの血が流れ出て、馬鹿な私でももう駄目だということが分かった。
「私、もう駄目みたい、だね…」
「何言ってんだよ、らしくねェぜ。ククッ」
確か、クルルとの最初の出会いは最悪で、私はクルルに殺されそうになった。その日だけじゃない、何回侵略者であるクルルに殺されそうになったことか、そのクルルが今では私のことを助けてくれて、死ぬなって言って手を握ってくれるんだ。
「ふふッ…」
「こんなときに何笑ってんだよ」
「別に、思い出し笑い」
段々とクルルの手を握る手に力が入らなくなってきた。クルルもそれに気が付いたのか、私の手を握る手にさらに力を込める。
「なまえ」
初めてクルルが私の名前を呼んでくれて、嬉しくて、私の頬に涙が一粒流れた。
「なに?」
「………」
「 愛してるぜェ 」
追悼、グッバイハニー
(ありがとう…)
そう言って微笑むと彼女はゆっくりと目を瞑り、そのまま一言も喋らなくなってしまった。もういつもみたいに可愛い声でおれの名前を呼ぶこともないし、おれのことを大好きだと言ってはくれない。おれの手を握る手にはもう力はこもってない。始めて握った彼女の手はとても冷たかった。
もっと前から言ってあげれば良かった…
END
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