夕日の赤が差し込む下駄箱、外に出るとポケットから煙草を1本取り出してゆっくりと吸った。ほんの何時間か吸っていないだけの煙草がひどく久しぶりの様な気がして体に染みる。僅かに鼻歌を歌いながら自分の原付が置いてある駐輪場に向かうと、テスト期間中で部活の生徒さえ見当たらない駐輪場によく見慣れた後ろ姿を発見した。紛れもなく俺の生徒であるその見慣れた後ろ姿に声をかけた。

「何してんの?もう暗いし帰りなさい」
「帰りたいのは山々だが帰る術がない」
「あ?お前自転車は?」

振り返った彼女が指差した先には見事にサドルだけが外された自転車があった。普段はサドルで隠れているはずのぽっかりと丸い穴の空いた筒が寂しげに見えている。

「あらま…」
「気づかないで座ってお尻打った」
「そりゃ痛い」
「サドルって盗まれるんですねー自転車は盗まれたことあるけどサドルは初めて盗まれた」
「盗まれる盗まれる、俺も学生の頃駅前に停めてて盗まれたもん」
「それは先生が誰かに嫌われてて嫌がらせされただけでしょ」

そう言って彼女が深いため息を吐いた。あの、俺傷ついちゃったんですけど。ってかどっちかと言うと学校で盗まれてる方が嫌がらせされてると思うんですけど。まあ、そんなこと口が裂けても言えないけどね。彼女は眉間にしわを寄せて恐い顔をしている。

「で、どうすんの?」
「歩いて帰ろうと思ったけど私の家歩いたら1時間ぐらいかかるの」
「へえ」
「このまま乗って帰ろうと思ったんだけどね、3メートルぐらい進んで"あ、これお尻に穴が空く"て思ってやめた。」
「いいじゃん、最初から1つは空いてるし」
「駄目だよ、3つも穴があったら未来の旦那が子ども作るとき迷うじゃんか」
「こらこら」
「ここ田舎だからもうバスもないしさー」
「隣の自転車のサドルパクっちゃえよ」
「最低ーそんなことしたら私と同じ悲しい思いする人が増えるじゃん。またその盗られた人が隣の人のサドルを盗んでって負の連載が学校中で広まるじゃん。教師失格、最低人間」
「たく、しょうがねぇな」

俺が自分の原付が停めてある場所に歩いて行くと彼女は「おいコラ、お前は可哀想な女生徒を置いて自分は原付で悠々と帰る気か」と言ってきた。睨みをきかせてる彼女に向かって、原付に跨り荷台をぽんぽんと叩いた。

「あ?」
「だーかーらー、送ってやるから乗れ」
「は?やだ、原付で2人乗りとかそれ国土交通法違反」
「あ?じゃあどうすんだよ」
「何で車持ってねェんだよ、役立たず」
「あほか」
「タクシー代出せよ」
「お前にタクシー代やるぐらい裕福だったら車買ってるわ」
「まじ役立たず」






私専属タクシー
(結局乗るのかよ)(乗らなきゃ帰れないじゃん、ってかメット寄越せよ)





「あんたこんなの見つかったら退職もんだよ」
「警察にばれなきゃ良いんだよ。ところでお前んちどっちよ?」
「あっち」
「俺んちと真逆じゃねェか、ってかお前明日の朝はどうすんだよ」
「あ?当然迎えに来いよ、ってかついでにサドルも買って来いよな」
「・・・」

ちらりと彼女の方に目をやると、校則違反の短いスカートがハタハタと風になびいていた。見える、あとちょっとでスカートの中が見えるゥゥゥ!

「おい、見てんじゃねェよ変態教師。前向いて運転しろ、警察に連れてくぞ」
「・・・」




END
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