部活が終わって薄暗い校舎を歩いていると、2年生の教室に人影を発見し、ふと足を止めた。その影の人物はおれたちの部活のマネージャーで、険しい表情で机に向かっている。そういえば今日部活に来てなかったな、とか考える。
「おい、何やってんだ?」
「んぎゃッ!土方先輩!?」
彼女は俺の顔を確認すると驚いた顔で目をぱちぱちさせ、時計と俺の顔を見比べ、もうそんな時間!?と叫んだ。
「お前、こんな遅くまで何やってんだよ」
彼女の机に目をやるとたくさん山積みにされたプリントたちに、まだあまり開いたことがないのか真新しい教科書、赤い文字がびっしりのテストたちが乱雑に置かれていた。
「復習という名の補習です」
「それは復習じゃねェよ。お前って頭悪かったんだな」
「まぁ、良くはないですね」
「それを悪ィって言うんだよ」
「そうとも言います」
そう言うと彼女はへらりと笑い、再びプリントとにらめっこを始めた。俺は彼女の隣の、誰のか分からないイスに腰掛けた。イスに腰掛けた俺を横目でちらりと見る。
「土方先輩帰らないんですか?」
「もう外暗いし、危ェだろ。終わるまで待っててやるよ」
「おお、かたじけない!拙者頑張るでごわす!」
意味分からない言葉を発すると、頑張る気があるのかないのか彼女は教科書をぱらぱらとめくった。やっぱりこいつは馬鹿だ。色んな意味で。暇になった俺はぼんやりと教室の中を眺めた。黒板には明日の日付と明日の日直の名前が既に書かれていた。隣からは彼女の唸る声が聞こえる。
「俺さぁ」
「んー?」
「今日誕生日なんだよね」
何気なくぽつりと呟くと、さっきまでプリントに取りかかっていた彼女ががばりと顔を上げて、大きな目を余計見開いて俺を凝視した。俺は突然の行動に驚いた。彼女は大きな目をぱちぱちとすると俺と黒板を交互に見る。
「今日が誕生日って、5月6日ですか?」
「違ェよ、あれは明日の日付だろ。誕生日は5月5日」
そう言うとふーん、と呟いてスカートのポケットから何かを取り出して俺の目の前でその握り締めた手をゆっくり開いた。手のひらにはいつのか分からない、少し熱で変形したキャンディがのせられていた。
「えーっと、知ってました。これ、プレゼントです」
「嘘つけ、お前それ今見つけただろ?大体、糖尿間近の糖分教師じゃねェんだから、んなもんいらねェよ」
「土方先輩!プレゼントってのは質じゃあありませんよ、愛です!」
「お前それたまたまポケットに入ってた飴じゃねェか。質どころか愛も何もこもってねェよ」
俺がそう言うと彼女は唇を尖らせて、ぶーぶーと言った。お前今時ぶーぶーなんて誰も言わねェぞ。
「じゃあ何なら愛がこもってるんですか?」
「そうだなー今日も部活一生懸命頑張ってきた先輩に、マネージャーからご褒美のキスとか?」
俺が笑ってそういうと彼女はきょとんとした顔をして、そんなことでいいんですか?と言った。
「…へッ?」
俺が驚く間もなく一瞬だけ俺の唇に暖かい感触が触れる。状況を理解するのに頭がパニックになった。俺がやっと状況を理解した頃には唇は離れたが、それとは逆に俺の頬は熱を帯びていく。
「私の誕生日にもよろしくお願いしますね」そう言って目の前でにっこりと微笑んだ彼女は、いつものあほな彼女とは違って、すごく妖しく綺麗だった。
小悪魔からのプレゼント
(え゙え゙え゙え゙え゙!!!)
END