「雨…」

刀を磨くその手をとめてぽつりと呟くと、大粒の雨がぼつぼつと降り始め、庭の草木を濡らした。空には黒く厚い雲が覆い、まるで君の気持を表してるようだった。

「副長、雨が降るってよく分りましたね」

山崎が忙しそうに洗濯物を取り込みながら言った。そんなもん女中にやらせりゃいいもんをと思いながら俺はぼんやりと外の雨を眺めていた。

「雨のにおいがすんだよ」

そう言い俺は刀を鞘に納め、上から浴衣を羽織った。山崎には「こんな雨の日にどこ行くんですか?」と聞かれたが俺は軽く右手をあげて答えただけだった。俺の行く場所は決まっている。下駄を鳴らしてあの場所に向かった。そう、君がいるあの場所に。雨の中、カロンコロンという下駄の音と雨音だけが響いた。俺の着いた場所はたくさんの墓石が並ぶ場所、殉職した英雄たちの墓石が並ぶ。雨でしとしとと濡れた墓石はまるで泣いているみたいだった。君はいつもその中の1つの前に祈るようにうずくまっている。もういい加減諦めろよ…

「おい、濡れるぞ」
「ひじっ、かたっ、さっ…」

持っていた傘をそっと差し出すと、弱々しい返事が返ってきた。俺の髪や肩がどんどん濡れていく。雨で濡れて分らないが、きっと君はまた泣いているんだろう。

「そんなに泣くなよ」
「ごめっ、なさっ…」

それでも君は泣きやまない、この場所からは動こうとはしない。俺はこの時いつもやるせない気持ちでいっぱいになる。

嗚呼愛しい君よ、そんなに泣いてくれるな。醜い自分が嫌いになるから…







その泪をください
(俺が死んでも泣いてくれるか…?)




END

素敵企画restに提出させていただきました。
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