※BR



俺が小さいころに輝いて見えていた世界は、大人に近づくにつれて段々と色褪せていった。適当に家から近い学校に通って、適当に友達作って、適当に悪さして、親友と呼べるような友達もいないし、そんなんだから好きな子なんてもちろんいない。自分のことを好きだと言ってきた女と適当に付き合って一通り恋人ごっこが終わったらさようなら。今俺の目の前で腹を押さえてうずくまる女だって3年間同じクラスだったが名前なんて覚えてない。俺を庇ってこいつは撃たれたのに。

「おいッ!大丈夫かッ!?」
「ひじ、かた、くッ…」

俺の名前を読んだこいつの口から真っ赤な血がごぼりとこぼれた。撃たれた腹からはどくどくと血が流れて地面をどんどん赤く染める。医学なんて学んだことがない俺でさえ、こいつの命が長くないことが分かった。彼女は確か頭が良くて、真面目で、地味で目立たなくて、とても自分の命を張ってまで他人を助けるような奴には見えなかった。このゲームの開始を告げられたときだってずっと泣いていたんだ。それに優等生なこいつと俺は住んでる世界が違うし、喋ったことなんて1回もない。「お前、何でッ!?」

驚く俺の顔を見て、彼女はうっすらと笑みを浮かべた。その顔は、とても死にかけてるやつがするような顔には見えないぐらい温かい、安らかな笑顔だった。俺はこいつが笑っているのを初めて見た気がした。いや、今まで気付かなかっただけかもしれない。

「私ね、土方くんのことッ、好きッ…だよ…」
「え…?」

苦しそうに呟いたその目には今にもこぼれそうなほど涙がたまっていた。

「今まで、真面目にッ、勉強だけしてきた。親の言うこと何でも聞いてッ、好きな人なんてできたことなかった、し」
「……」

そこまで喋ると「なのに、何でだろうね」と微笑んだ。微笑んだ瞬間彼女の頬を透明な雫がぽろりと伝った。

「土方くんはかっこ良いし、モテるし、私なんか相手にしてくれないの知ってるし、土方くんを好きになるなんてッ、図々しいかなって、思ったの…」
「……」



「それでもあなたが好きです」



彼女の目からはたくさんの涙がぼろぼろとこぼれた。

「泣かない、で」

そう言った彼女の言葉で自分も泣いていることに気が付いた。泣いたのなんて何年ぶりだろう?確か小学生のころに学校で飼っていたうさぎが死んで以来。

「ひじ、かたッ、く」
「……何だ?」
「1回でいいから、名前でッ、なまえって呼んでくれないかな?」

俺は彼女を名前で呼ぶことに戸惑った。俺は今こいつの名前が「なまえ」であることを知った。そんな俺が、こいつのこんな真っ直ぐな気持ちに気づいてやることができなかった俺が呼んでいいのか?俺が考えていると彼女が咳き込んでさっきよりたくさんの血が地面に落ちた。もう息をすることも苦しそうにぜぇぜぇと肩を揺らしている。

「……なまえ」
「ありがとう、嬉しいッ」
「なまえ」
「あり、がとッ…」

彼女は溢れる涙を拭うことなく震える声で何度もありがとうと呟くから、俺は手を強く握りしめて何度も名前を呼んだ。

「あれ?」
「どうした?」
「あたし、眼鏡、眼鏡どこにやっちゃったんだろう…」
「……ッ!?」
「やだ、土方くんの顔が見えなくなっちゃう、せっかく、こんなに、こんなに近くにいるのに」

そう言って彼女は眼鏡をかけたままぼろぼろと泣いた。俺は彼女の死期を悟って強く抱きしめた。

「なまえッ!」
「あり……が、と……」
「おいッ!なまえ!?死ぬなッ!なまえッ!」

その言葉を最後に、彼女が再び目を開くことはなかった。彼女の顔は安らかで、俺は何度もこんなところで出会わなかったら、と涙をこぼした。

もし、ゲームなんかなかったら俺はお前を好きになることはなかっただろうか?








泣きたくなるような恋をしました。
(でもその恋は一瞬で終わりました)






あなたと出会って少しだけ輝きだした俺の世界は、前よりも暗い闇に墜ちてしまいました。



END
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