「サンタさんって、誰にプレゼントを貰うのでしょうか」

ぽつり。千寿郎くんから放たれた言葉に、私と杏寿郎の間に静かな激震が走った。

今日はクリスマスイブ。今年は終業式とクリスマスが被っており、明日の式が終わればもう冬休みだ。午前授業を終えてそのまま煉獄家に直行した私たちは、炬燵でみかんを食べながらぼんやりと過ごしていた。あたたかい部屋につまらないテレビ。なんだか少し眠たくなってきた、そんな中でのこの爆弾発言である。

中学生になる弟がまだサンタさんを信じているかもしれない。その疑念に、杏寿郎はごくりと唾を飲み込んだ。
純粋無垢を体現したような弟だ。有り得ないとは言いきれない。
しかし、それも如何なものなのか。「昨日サンタさんが〜」なんてうっかり学校で言ってしまった日には、クラス中からドン引きされかねない。可愛い弟が「アイツこの間までサンタさん信じてたんだぜ」と陰口を言われるのは避けたかった。
悩みに悩んだ末、杏寿郎は苦い顔で口を開く。

「...あのな千寿郎。その、サンタ殿についてなのだが...」

不都合な真実を告げようとする杏寿郎に、千寿郎くんはハッとして手を振る。

「ちっ、違いますからね兄上!僕だってさすがにサンタさんの正体は存じてますよ!」

慌てたように言う千寿郎くんに、私たちはホッと息を吐き出した。知っていたのかと安心したのが半分、残り半分は少し残念な気持ちだ。出来る事なら千寿郎くんには一生サンタさんを信じていて欲しい。

「僕が言いたいのは“プレゼントを配るサンタさん自身は誰にプレゼントを貰うのか”という話でですね」
「むぅ...、確かにそう言われればそうだな」
「配るだけで自分は貰えないってちょっと寂しいよねぇ」

そう言いながら、私は手元のスマートフォンで“サンタさん プレゼント お礼”と検索する。未だに携帯を持たない杏寿郎のお父さんが見たら「最近の若者はすぐそうやってスマホで...」と怒られそうだが、便利なものは便利なので仕方がなかった。いい感じの記事を発見し、指先でタップする。

「...−日本ではあんまり馴染みがないけど、海外ではサンタさんにもプレゼントをあげるらしいよ。イブの夜にクッキーとミルクを用意して、お礼の手紙と一緒に置いておくんだって」
「そうなんですか?初めて知りました!」
「これならサンタさんも喜ぶね」

私の言葉に千寿郎くんは嬉しそうに頷く。ぱっと立ち上がったかと思うと、そのままキッチンの方へと駆けていった。きっとクッキーと牛乳の在庫を確認しに行ったのだろう。急いで戻ってきた彼の手には財布と上着が握られている。

「牛乳が残り少なかったのでちょっと買ってきます!なまえさん、お夕飯も是非食べていってくださいね!」
「ありがとう。千寿郎くんと瑠火さんのご飯楽しみにしてるね」
「車に気をつけてな!」

そう言って、私たちは炬燵の中から千寿郎くんを見送る。「相変わらず天使みたいに良い子だねぇ」「そうだろう。自慢の弟だ」と顔を見合わせて笑った。



つけっぱなしのテレビはいつしかイルミネーション特集へと変わっている。金と赤でデコレーションされた大きなツリーは、まるで目の前の恋人をイメージして作られたみたいだ。似てるなぁとその横顔を見つめていれば、杏寿郎が「む?」とこちらを向いた。炬燵の中、大きな手がするりと私の膝に触れる。

「どうした?テレビも見飽きたか?」
「ううん。さっきのツリー、杏寿郎と似てるなって思っただけ」
「そうか」

膝を撫でていた手が、ゆっくりと太腿をのぼってくる。「っ、」息を詰めた私の唇を、みかんの味がする唇が音を立てて塞いだ。ちゅ、ちゅ、と水っぽい音を響かせながら、とろけるように熱い舌が出入りする。肩を押され、どさりとカーペットに押し倒された。杏寿郎の長い髪がカーテンのように私と外界を遮る。

「っ、ここじゃ駄目」

思わず腕を突っ張った私に「なら何処なら良い?」と杏寿郎が問う。なんて意地悪な言い方をするのだろう。二人だけの時にしか聞けない甘い声に、身体の奥がじんと熱を持った。
背中に回った太い腕が、慣れた手付きで下着のホックを外す。「あっ、駄目だってば...!」やわやわと胸を揉む骨張った手を、私は服の上からぎゅっと押さえつけた。

一番近いコンビニなら15分、スーパーなら30分は掛かる。千寿郎くんは家庭的な子だから、たとえ牛乳一本でもスーパーを選ぶだろう。...それでも急がねばならない。

私の家ではないのに、何故か私が杏寿郎の手を引いて二階へと上がる羽目になる。後ろでクスクスと笑う杏寿郎を、私は真っ赤な顔で睨みつけた。


MerryX'mas!

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