まだ朝です
朝早くの、肌寒いコテージのリビング。
窓から入る光だけのぼんやりとした明るさの中、静かに、暖炉に火を着ける。
次第に炎が大きくなって、暖まる空気に、薪の音がぱちぱちと、心地よい。
その中で、ゆっくりとソファーに腰掛ける。
一番の早起きだからこそ味わえるこの時間をひっそりと楽しむのは、ウォーリア・オブ・ライト。
…寒くなってきたな。
ちょうど薪がなくなったので、外から薪を調達してこなければ。
室内でも寒さを感じる程だから、外も中々の冷え込みなのがわかる。
「おはよう、ライト」
「ああ、おはよう」
ライトの次にリビングに現れたのは、朝食の支度をするために早めに起きるフリオニール。
そのすぐ後ろにティナもいた。
「おはよう…」
「おはよう。まだ眠そうだな、ティナ」
「うん、少し早く起きちゃって」
ティナはそう言って、ライトの隣に腰掛けた。
身支度を既に整え終えている様子のフリオニールとは対照的に、ティナはそのクセのある髪をまとめただけのようだ。
「俺も早く起きたつもりなんだけどな。すまない、すぐ準備するから」
「いや、急ぐことはない。このあと薪を取ってこようと思っている」
「そうか。じゃあその間に…」
フリオニールは奥のキッチンへ向かった。
ティナは曇っている窓を見て、外は寒そうね、と呟く。
「外に行くなら、寒くないようにしてね。風邪をひいちゃうから」
ティナの言葉に、彼女の頭を優しく撫でることで返事をした。
そのことを理解して、ティナは笑顔で返す。
そして、彼女はフリオニールを手伝うために部屋の奥へ消えていった。
さて、とライトがソファーから立ち上がる。
と同時に、リビングにバッツとクラウドが現れた。
「おはよう!いやー、寒いなー」
バッツが寒さも吹き飛ぶような明るい口調で話す。
「…じゃあサードフォームを着れば良いじゃないか」
朝だからか、少しトーンの暗いクラウドの言葉。
「いやクラウド、君も十分寒そうだ」
ぴしりとライトが言い放つ。
それ言ったら大半のヤツがツッコまれるだろー、とバッツが肩をすくめる。
確かに。と納得したライトの表情の真剣さが可笑しくて、二人は思わず笑ってしまった。
仲間の言葉に真剣に耳を傾けてくれる。
そこが彼の良いところには違いないが…それゆえ時に変なことを吹き込まれたり。
思い当たる記憶に笑い合う二人の真意をライトは掴めないでいた。
「ライトさん!おはようございます」
「おはよう」
玄関に向かう廊下で、オニオンナイトが思い切り頭を下げて挨拶する。
「どこかに行くんですか?」
「いや、薪を取ってくるだけだ」
「それなら…」
僕が手伝うよ、と続けたのは、オニオンナイトの後ろからやってきたセシル。
思いがけず自分の言葉が遮られ、オニオンナイトは困ったような、怒ったような視線をセシルに向けた。
「ふふ、力なら僕の方があるからね。でもその前に」
オニオンはあなたに話があるんだよね、と楽しげに続けた。
少し照れくさそうなオニオンナイト。
「あ、あの…」
ためらいがちな口調に、ライトは姿勢を低くして、彼の言葉を、しっかりと聞いてあげようとする。
いつも物事をはっきり話す彼が話しにくいこととなると…。
何を話すのだろうかと心配そうなライトの表情を見て、今度はセシルが笑う。
「…君に剣の稽古をつけることを断るはずがないだろう」
「ほ、本当に!?良いんですか!?」
「ああ」
何度問い掛けても、ライトの返事が変わるわけがないのだが。
何度もその返事を聞けて、オニオンナイトはいかにも満足気だった。
ライトは嬉しそうにリビングに向かう背中を見送った。
「本当に尊敬してるんだね、あなたのこと」
「…そうなのだろうか」
そんな自覚の無いところも彼の、仲間から慕われる理由なのだろう。
セシルとライトが薪を集め終わる頃。
コテージから、先ほどのバッツとクラウドに加え、スコールとティーダが出てくるのが見えた。
「お先にイミテーション倒して来るッス!」
「昨日片付けきれなかったイミテーションをなんとかしようと思ってさ」
戦いに備えて、四人とも装備は万全と言った様子だ。
「あとで僕たちも行くよ」
「それまでに少しでも、みんなの負担を減らせると良いんだが」
スコールの言葉に、他の三人も頷いた。
「美味い朝飯も食ったし!」
「昨日フリオとライトが武器の手入れ手伝ってくれたし!」
「…そのフリオニールをからかって笑ったきたし」
さらりとクラウドが言ってのけた言葉を、スコールがこれまたさらりと受け流して続けた。
「準備に怠りはない」
「気合いも十分ッスよ!」
じゃあ、行ってきます。
と歩き始めた軽やかだが力強い四人の足取り。
「…この様子だと」
「本当に四人だけでなんとか出来ちゃうかも、ね」
朝に蓄えた力は、その日一日の良し悪しにつながることもある。
きっと四人は、十分過ぎるほど力を蓄えることができたのだろう。
ご飯を食べて、仲間に協力してもらって、そんな仲間と笑いあって。
…つまり、主にフリオニールのおかげで。
リビングに戻って暖炉に薪を焼べるころには、室内は仲間たちの話し声と朝食の匂いに満ちていた。
「二人ともお疲れさん!」
ジタンが手際よく二人の座る席の用意をする。
「オレはフリオニールがティナに変なことしてないかばっちり監視してたぜ」
「なるほど、ご苦労だったな、ジタン」
「ライトまで、そんなこと言わないで…くれ…」
ライトたちのからかいに、フリオニールは対抗するだけの気力が無いらしい。
仲間たちの笑い声が響き合う。
「冗談だって、フリオニール」
「…ジタンには今日牛乳やらないからな」
「…それ地味に悪質だな」
それなら僕がもらってあげるよ、とセシルが持っていこうとした牛乳をジタンが取り上げた。
みんな大人気ないんだから、とオニオンナイトが呆れたように、しかしどこか柔らかに言う。
みんな、冷めないうちにどうぞ、とティナが料理を運ぶ。
湯気の立つその料理を口に入れる前に、既に身も心もすっかり温かい。
まだ、今日は始まったばかり。