これから、このまま

聖夜に歌を


なんで、僕はここにいるんだ?

「セシル、お前も歌わないのか」
「いや…兄さんの歌唱力を見せつけられたあととなると気が引けて…」
「まあ、セシルが弱腰なんて久しぶり」
「先に俺が歌おう」

カインがマイクをゴルベーザから受けとり、準備に入った。

12月24日に、カラオケ中の4人組。
4人は幼なじみだ。
セシルとローザが同棲し始めてからは、全員が一緒にいることは少なくなった。

なのに、ローザがクリスマスは4人で過ごそうと提案した。
ゴルベーザとカインは初め遠慮していたようだが、最終的には同意した。

……僕の同意は?

「セシル、いい?これはあなたの使命よ」

最終的に決まった行き先が、カラオケ。
歌は嫌いじゃない。
ギルバートに習ったこともあったが、彼には到底及ばない。
それ以前に、まわりの3人もかなりの腕前だ。
そんな中で歌わなければならないなんて、緊張もする。

ローザはなんでこんなことを?
考えても何も浮かばない。

そんなのお構い無しに、カインの歌声が響く。
やっぱり上手い。
昔から負けず嫌いの彼は、歌すら手を抜かない。

ふと、気付いた。
彼が歌ってるのは、愛の歌だと。
必死に、愛を伝えようとする歌であると。
その方向は、聞き手の3人に向いていると。

なぜ、歌を歌うのか。
聖夜に歌うならば、神の為?
違う。
思いを伝えたいから。
みんなは、もう僕に伝えてくれた。
今、僕は伝えなきゃならないんだ。
目の前にいる仲間たちに。

カインが歌い終わった。

「私も歌ったから、次はセシルで良いわよね?」
「…ああ」

カインがマイクをセシルに手渡すと、彼の瞳は真っ直ぐに仲間一人一人を見た。

「セシル?」

カインの問いかけに何も答えず、セシルは歌いだした。

一瞬、耳を疑った。
その歌声は聴衆の心を清めるようで、言葉一つ一つが深く胸に染み渡った。
何より、その歌詞。

『君に愛を、僕に光を』

彼が、今日贈りたいもの。
彼が、今日もらったもの。

伝えて、伝わって。
こんなに素敵な、愛と感謝のメロディー。


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