SSS | ナノ
気にする

ちょっと待ってよ、と幾度か幸村が呼び掛けて、ようやく真田は歩みを緩めた。振り返れば幸村の手は真田の制服を掴もうとしたらしく不自然に伸ばされている。

「速いんだって、歩くの」

幸村は口を尖らせ、宙に浮いたままの手を引っ込めた。

「す、すまん……気が付かなかった」
「俺が呼ばなかったら一人で歩き続けたんじゃない」

そのうち隣に俺がいると思って一人で勝手に話し始めたりしてね。
口調は皮肉めいているものの、その光景を頭に浮かべたのか、楽しげに笑う。

「それではまるで俺に注意力がないようではないか」
「そうだね。真田だしね」
「……」
「ちゃんと周り見てよ?君は突っ走りやすいんだから」
「全く。母親のような口振りだな」
「母親……?俺はそんなに口うるさくないけどね。……あ。ほら、」

ちらりと後方へ目をやった幸村が何かに気付いたらしい。それにつられて真田も後ろを見た。

「みんなまだあんなとこだよ」
「たわけが。道理で静かだと思っていたが……」

他の部員たちは案の定ふざけあいながら歩いているらしく、真田たちよりずっと遠くにいる。丸井や仁王が切原をからかい、被害はなぜかジャッカルに飛び火し、柳だけが傍観しているといういつもの構図が繰り広げられていた。

「子供じゃあるまいし集団行動もできぬとは」
「あんなに手のかかる子供がいたら大変だね、真田おじいちゃんは」
「お、おじい……っ!」
「だって俺が母親だっていうなら真田はおじいちゃんくらいなものだろ?いっつも怖い顔でむすっとしてるし、言葉遣いも時代錯誤だし、すぐカミナリ落とすしさ」
「な、母親と例えたのがそんなに気に障ったのか……」
「……」
「……」
「……見て真田。収拾つかなくなってるみたい。蓮二が困ってるよ。助け船出してあげなきゃかな」

言い終わらないうちに駆け出した幸村の後ろ姿を見ながら、真田はそっと自分の頬をつねってみた。そして、家に帰ったら笑顔の練習をしなければならないのだろうかと肩を落とした。





―――――
2010/12/18
「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -