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「#幼馴染」のBL小説を読む
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そろそろホグワーツは夏休みになる。レギュラスとこの関係になってから、初めての長期休みだ。今みたいに毎日頻繁に会えないわけで、それが寂しくて仕方ない。


『 Lesson 08 幸せになりましょう。』


先程出された変身術の課題で使う本を何冊か図書室で借りてきて、寮へと帰ろうと廊下を歩いていた時のことだった。人通りの少ないこの廊下には、私と前から向かって歩いてくる1人の生徒しかいない。特に気にも留めずに、レギュラスと課題をしようと先を急ぐ。その前から歩いてくる人物の顔が認識出来る距離になった時、何となく視線を上げると私の大好きな人とそっくりな、吸い込まれるような黒い瞳と目が合った。

「あ…」

無意識のうちに漏れた言葉は、目の前の人物の低い声と重なる。その反応から、彼はどうやら私の事を知っているらしい。学年も違うし、私は彼が最も毛嫌いしている寮に所属しているのだから、私の事なんてこれっぽっちも知らないと思っていた。
シリスス・ブラック。私は彼と一度も話をした事がないし、目が合ったのもお恐らく今が初めてだろう。少し距離を取りつつも、私達はほぼ同じタイミングでその場に立ち止まった。
どうしよう。とりあえず挨拶でもしたほうがいいのか。そんな事を考えていると、彼のほうが先の口を開いた。

「どーも」

「…こんにちは」

「スリザリンの苗字さんだろ?」

「私の事、知ってるんですね」

「ああ、最近有名だからな」

「へぇ、そうですか」

彼は、私にいきなり魔法をかけてくるわけでもなく、きつい暴言を吐くわけでもなく、やけに淡々と落ち着いていた。しかしその表情は、どこか私をからかっている様だ。

「うちの弟がお世話になっているみたいで」

「こちらこそ、レギュラスとは仲良くさせてもらっています」

レギュラスと私の関係を、シリウスさんも知っていたなんて驚きだ。レギュラスはあのブラック家の息子だし、私達の関係がそれなりに注目を浴びていた事を知らないわけじゃない。でもわざわざ彼が、この話を私に振ってくるとは。いやそれよりも、わざわざ私に話掛けてくるとは。なんだかんだいって彼は、弟が心配なんだろうか。

「シリウスさんは最近レギュラスと話しましたか?」

「いや、まったく」

「寂しいんじゃないですか?」

私の問いにシリウスさんは自嘲的に笑った。その表情はまるで、あの時の彼と重なって、胸が少し苦しくなる。こんなにも似ている兄弟だったなんて、思ってもみなかった。きっと幼い時は仲良しだったんだろうな。

「本当に、レギュラスもシリウスさんもそっくりですね」

「顔は似ているってよく言われる」

「レギュラスのほうが、かっこいいですけどね」

「…おまえなぁ、」

「ふたりとも、本当にばかだ。もっと素直になればいいのに」

私がこのふたりの関係に口を出しちゃいけないのは、そんな事は重々承知だ。だけれど、私はふたりが笑い合っている未来が見たい。
私は彼に顔を少し近づけで、挑戦的に笑う。精一杯の嫌味を込めて。

「レギュラスは渡しません。せいぜい悔しがっていてくださいね」

驚いた顔をするシリウスさんの表情はとてもレアだと思った。中々お目に掛かれない表情のはずだ。
傍から見たら相当おかしな光景だろう。これがこの人通りの少ない廊下でよかった。そんな私達にいつの間にか近づいてきた人物がいる事に、私は全く気が付かなかった。その細く白い手に、少し強めの力で自分の腕を引っ張られるまでは。

「わっ…!」

「…名前があまりにも遅かったから迎えに来たよ」

こんなに不機嫌そうな彼を今までに見た事があるだろうか。眉間に深いシワを寄せた彼は、自分の感情を少しも隠そうとはしていなかった。

「何で2人でいるんだ」

「たまたま、ここで会っただけだよ」

「そうそう、あんまカリカリすんなよ」

より一層楽しそうな顔をしたシリウスさんは、先程の表情とは打って変わってイキイキとしている。

「…貴方は、名前にちょっかいを出さないでください」

「なんだよ、少し話してただけだろ?」

「それじゃあ、もう一生名前に話し掛けないでくださいね」

「はぁ?…ちょっ!おいっ!」

彼はシリウスさんに言いたい事だけを言うと、シリウスさんの言葉を無視して、私を引っ張りながら歩き出した。彼に引かれる腕は、少し痛い。赤くなってしまうだろうか。

「また話そうな、名前!」

シリウスさんの大きな声を背に、私達は止まる事なく進んでいく。火に油を注ぐとはまさにこの事だろう。シリウスさんの言葉に、レギュラスの手の力がさらに強くなった。
あと少しでスリザリンの寮に着くだろうか。そんな場所で彼は、やっと私の腕を離した。そして、私を強く抱きしめる。私はスッポリと彼の腕の中に収まる。

「ごめん…、腕痛かったね」

「大丈夫だよ」

彼の声は、小さく震えていた。

「…名前が兄さんの所に行くんじゃないかって怖かった」

「そんな事、絶対にないよ」

「2人の姿を見て、心臓が止まるかと思った」

「…レギュラス」

彼のローブからは、少し薬品の匂いがする。それが、とても心地いい。

「私ね、シリウスさんに宣戦布告をしてきたの」

「宣戦布告?」

「そう。レギュラスは渡さないよ、って」

シリウスさんのほうが、私の知らないレギュラスをたくさん知っているはずだ。まだまだとても勝てる気はしないけれど、レギュラスを思う気持ちは誰にだって負けない。

「もしレギュラスが私の事を嫌いになっても、私は絶対レギュラスの事を好きなままでいる自信があるよ」

レギュラスと一緒にいればいるほど、私は彼を好きになる。

「僕が名前の事を嫌いになるはずがないだろう?
もし僕から離れたいって言っても、離さないからね」

まだまだ私達は出会ったばかりで、過ごした時間はほんの僅かしかないかもしれない。でも、これから先、2人の未来を一緒に作っていけたらいい。

「…名前、ありがとう」

「これからも、一緒にいようね」

「ああ、もちろん。」

「レギュラス、大好きだよ」

これからも、ふたりで一緒に成長していけたらいいね。


恋のいろはを教えましょう。 fin.