text | ナノ

持っていたお皿を静かにテーブルの上に置いた。正装をしている彼はいつにも増して気品に溢れている。

「名前とても綺麗だよ」

「貴方もとても素敵ね」

私の手をとって小さく口付けをする姿を、周りの女性が見惚れるようにうっとりとした表情で見ている。いつの間にかいろんな人達が私達を注目するように見ていた。

「何の用だ、ルシウス・マルフォイ」

「これはこれはシリウス。君は相変わらずだ」

「お久しぶりです。ルシウスさん」

「レギュラスもまた随分と大人になったね」

早くここから逃げてしまいたい。いろいろ面倒くさくなる前に。シリウスとルシウスは犬猿の仲だし、何が起こるか分からない。シリウスがパーティーに珍しく参加すれば、こうなる事は目に見えていたのだけれど。

「私はあまりここにはいない方がいいみたいだね。」

「当たり前だ」

「分かったからそんなに睨まないでくれ。
ただ挨拶がしたかっただけだよ」

「すみません兄が」

「いいんだよレギュラス。それじゃあ私はこれで失礼するよ」

ルシウスが早々とここから切り上げるなんて。本当に珍しい。いつもシリウスをからかいながら楽しんでいたのに。
そんな彼は最後に私の方を見ながら一言だけこう言った。

「ああそうだ、名前。明日のクリスマスプレゼントを楽しみにするといいよ」

胡散臭い笑みというオプション付きで、彼は私にそう言った。彼からは毎年何かしら貰っているが、こんな事を言われるのは初めてだった。

「名前、そんなもんすぐにでも捨てちまえよ」

「兄さんはあの人を敵視しすぎだよ」

「うるせぇ」

彼の真意が分からないまま、坦々とイヴの夜は更けていった。オリオンさん達に挨拶を済ませ、シリウスとレギュラスともかるく別れの挨拶をする。シリウスはまた休暇明けにでもすぐに会えるが、レギュラスとは当分会えなくなってしまうだろう。彼にまた手紙を書くからと伝えると、レギュラスは嬉しそうに笑ってくれた。
両親とともに我が家へ帰れば、屋敷しもべ妖精達が出迎えてくれる。今日はもう疲れてしまったし早めに眠ろう。皆に挨拶を済ませて自分の部屋へと向かう。着替えをしてシャワーを浴びて、すぐにベッドの中へ潜り込んだ。時刻はもう日付が変わる少し前。この年齢の身体で夜更かしはキツイのだ。暖かい布団に包まれながら、私はゆっくりと眠りについた。


カーテンの隙間から漏れる光が眩しい。眠い目を必死に開きながら時間を確認すると、もう朝の九時になろうというところだった。だいぶ眠ってしまったみたいだ。
身支度を整えてもう両親がいるであろうリビングへと向かう。朝寝坊をしてしまったのは久しぶりだった。ホグワーツは朝食の時間もあるし、わりとみんな早起きだ。

「あら、おはよう。よく眠っていたわね」

「おはようお母さん」

「名前おはよう。プレゼントがたくさん届いているよ」

「お父さんおはよう。
わぁ、本当だ。嬉しいな」

リビングには朝食を作る母と、新聞を読みながら紅茶を飲んでいる父がいた。お父さんの言ったとおり、ツリーの周りにはたくさんのプレゼントが置いてある。去年よりずっと多い数に少し驚いてしまった。

「プレゼントを開けるのは朝食を食べてからにしてね」

「はーい」

美味しそうな朝食が並べられたテーブルについて、それに手をつける。プレゼントを早く開けたいと思ってしまうのは、何歳になっても同じだろう。私は朝食を食べ終えるとすぐに、プレゼントの開封作業に取り掛かった。

「本当に今年は多いなぁ」

私のプレゼントは右の隅のほうにまとめられている。あまりよく知らない名前があるのはいつもの事だ。私がプレゼントを送っていない人には、あとでお礼の手紙を書かなければいけない。それもまた大変な作業だ。
同室のマリアからは素敵な紅茶のセット、エレナからはマグル性の可愛らしいレターセットが入っていた。早速これで二人に手紙でも書こう。リリーからはこれまた可愛らしいカチューシャが、ジェームズからは悪戯セットでリーマスとピーターはお菓子の詰め合わせだった。リーマスはそれに猫の栞も付いていて、早速使おうと嬉しくなる。

「シリウスとレギュラスからは…」

彼らからは毎年貰っていたりあげたりしているので、毎年何をあげようか迷ってしまう。そんなシリウスからは動く白い兎のぬいぐるみが。シリウスにしては珍しいプレゼントにびっくりしてしまう。歌を歌ったりと可愛らしいく、ベッドにでも置いておきたい。レギュラスからはシンプルな髪飾りだった。シルバーとグリーンの配色が彼らしくてとっても素敵だ。私の黒髪によく似合いそうである。

「…ルシウス・マルフォイ」

そういえば昨日、彼に変な事を言われたんだっけ。プレゼントに添えられたカードの名前を見て思い出した。
ルシウスからのプレゼントは、シルバーのチェーンにクロスのチャームが付いたシンプルなネックレスだった。クロスの中心や、チェーンの所々に小さな赤いルビーの石が散りばめられている。こんな物を彼から貰うなんて、ますます真意がよく分からない。そんなに親しいわけでもないし、ましてや付き合っているわけでもないのに。
なんだか、だんだんと怖くなってきた。これに何か魔法がかけられていたら。そう思うと不安で仕方がない。お父さんに見てもらおうか。それがやはり安心だ。

「お父さん、これなんだけど…」

「うん?綺麗なネックレスだね。
クリスマスプレゼントかい?」

「そうなの。あまり親しくない人から貰ったから、変な魔法がかけられていないか不安で」

「僕が見てあげるよ」

お父さんは杖を片手にネックレスにいろいろな魔法をかけていく。でも、特に何も変化はない。考えすぎだったのかもしれない。

「うーん、何もないみたいだ。
でもネックレスか…きっと名前に好意があるんだろうね。
気をつけるんだよ」

「わかったわ。ありがとう」

これは箱に閉まっておこう。着ける気にもなれないし、そんな事をする義理もない。それを入っていた箱に戻し、引き出しの奥のほうに閉まう。今度ルシウスに会った時にでも彼に理由を聞けばいい。今はただ、皆からのプレゼントに嬉しい気持ちでいっぱいだった。
そのネックレスを着けなければいけないことになるとは、この時は思ってもみなかったけれども。それはまた数年後の話。