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第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
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「アイスいかがですかー!」

「お化け屋敷怖いですよー!どうですか〜」

二学期が始まってから最初の金曜日と土曜日、いよいよ文化祭が始まった。最初の金曜日は生徒達だけの校内発表会で、土曜日は一般公開になっている。そして日曜日は文化祭片付けと今週は少し忙しい。
俺達のクラスは舞台発表なので前日などの準備はほとんどなく、実際にステージの上を使ってのリハーサルと大道具の確認で終わった。お店やお化け屋敷などの展示は前日の準備がものすごく忙しい。
今年はもう部活も引退している身なので、部活の出し物には参加しない。やはり引退した三年生は自分のクラスに力を入れるのだ。だから昨日は早めに帰ることができた。

「二口どこ行くー?」

いろいろなクラスが客引きをしたりと人で賑わっている廊下を歩く。特に行きたいところもなく、いつもバレー部や知り合いのクラスを適当に回る。今年は店番がないからリハーサル以外はほぼ自由時間だった。
今日は午後から最後のの衣装合わせがある。昨日の夜にやっと完成したらしく、こんなにギリギリになってしまったらしい。裏方も裏方で、もしかしたら俺らよりも大変そうだ。
そろそろ朝からいくつかのクラスを周り文化祭にも飽きてきたころだった。

「別にどこでも」

「お、じゃあお化け屋敷行こーぜ!お化け屋敷!」

「お化け屋敷ー?」

「そ。5組がやってんじゃん」

「男2人でお化け屋敷とかなにが楽しいんだよ」

「いいからいいから!」

お化け屋敷なんか、おまえそういうキャラじゃないだろ。と言ってやりたい。中学生が作ったお化け屋敷なんてたかがしれている。
乗り気じゃない俺を、そいつは半ば引きずるように目的の場所まで連れて行く。お化け屋敷の前まで行けば、ほどほどに列が出来ていてそこが人気だということが分かった。

「ほら、並ぼうぜー」

「おまえ、まじなんなの?」

「二口は俺に感謝することになるよ」

「は?」

どや顔でそう言い放ったそいつはさっきからずっとニヤニヤと笑っている。なんなんだこいつ、意味が分からない。最近こいつのこういう顔をよく見る気がする。

「お待たせ〜」

そんなふうに列の最後尾に並んでいると、同じクラスの見知った顔が何人か俺達に近付いてきた。その中には苗字もいて、彼女と仲の良い女子数人と一緒だ。

「おっ、きたなー。じゃあ俺らは行こうか」

「うん、そーね」

おいおい、なんなんだこいつら。

「ちょっと、なに?どういうこと?」

「なに言ってんのおまえら」

この状況が分かっていないのはどうやら俺達二人だけらしい。苗字は俺と同じように訳が分からないといった表情をしている。そんな中でもこのお化け屋敷の列は並んでいるわけで。

「何名様ですかー?」

「あ、二人です!」

二人?二人ってどういうこど。こいつらまさか。

「じゃあ俺達は適当に回ってるからー!またクラスでな」

「名前がんばってね!」

颯爽と過ぎ去って行くそいつらの背中を見て、取り残されて俺達はただ唖然と立ち尽くすしかなかった。お互いの顔を見合わせれば同じような顔をしていて、思わず少しだけ笑ってしまう。

「まじでなんなの」

「ホント。なにどうしたの?」

「さぁ?」

「それでは二名様どうぞ〜」

黒い生地に所々血のような赤が飛び散っている柄の、ワンピースのようなものを着た係りの女生徒にそう誘導される。ここでこうしていても仕方がないし、他の人たちにも迷惑だ。

「入るか」

「え、入るの?」

「せっかく並んだしな」

「…じゃあ入ろっか」

にこにこと笑っている女生徒から、小さくて安っぽい懐中電灯とボロボロのお札を渡される。かるく説明を受けて教室の扉を開ければ、当たり前だがそこは真っ暗だった。

「苗字こういうの得意?」

「別に怖くはないけど、大きい音とかはだめ」

「あー、なるほど。
じゃあ苗字が右手でお札持ってて」

「右手…?」

不思議な顔をしながらも、彼女は渡されたお札をしっかりと右手で持った。

「しょうがないから、俺が手繋いでてあげる」

握った彼女の左手は少しひんやりとしていた。

「えっ…?」

「苗字が怖くないように。ほら俺って優しいから」

うそ、全部自分のためだけど。

ぎゅっと右手に力をこめて、そのまま前へと歩きだす。
少し顔が熱くなってしまっている自分に嫌気がさす。ああ、かっこわる。