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「#幼馴染」のBL小説を読む
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「名前おはよう!」

「あ、おはよう」

朝の挨拶をしてくれた友人に同じように挨拶を返して、どんどん人が増える教室を見渡す。あちこちの生徒がほんのり焼けていたり、がっつり真っ黒になっていたりと夏休みを多いに楽しんだようだった。あまり久しぶりな感じがしないのは文化祭準備のせいだろう。
中学校生活最後の夏休みもいつの間にかあっという間に過ぎ去ってしまった。今日は9月1日、二学期の始まりである始業式だ。

「二口くんだ。おはよう」

「おー苗字ー、はよ」

眠そうな顔で隣の席に着いたのはもちろん二口くんだ。眠そうな顔をしているのはいつもと変わらない。

「終わっちゃったね、夏休み」

「全然休んでる気がしなかったわ。
部活でもないのにすげー学校行ったし」

「久しぶりってかんじしないよね」

「半分くらいは一週間前に会ってるしな」

なんだかんだいって文化祭の練習もそれなりにあった。受験生だからそんなに多くはないけれど。今年の夏は勉強と文化祭準備で忙しくて、全く遊びに行けなかったのも事実だ。受験生の夏休みだし、それは仕方がないという事にしないとなんだか腑に落ちない。

「夏らしいことできなかったなぁ」

「祭りとか海とか?」

「そうそう。花火大会くらい行きたかった」

「9月の中頃にあるじゃん、最後の花火大会」

「あ、わすれてた!」

そういえば地元の小さな花火大会が毎年9月の中頃にある。それがたぶんここら辺の最後の花火大会だ。行けるか分からないけど、行けたらいいなぁ。

「二口くんはお祭りとか行った?」

「そういえば行ってないかも。
周りは受験だし、結局練習とかで忙しかったからなー」

友達も皆、塾の夏期講習などで忙しくて全然遊べなかったと嘆いていた。これは受験生にとって誰も同じことらしい。まぁ、今年は仕方がないだろう。



「始業式の前にSHR始めるぞー。席につけー」

久しぶりに聞いたやる気の無い担任の声と共に、いつも通りのSHRが始まる。かるい連絡事項と今日の日程の確認。それが終われば今度は退屈な校長先生の話を聞かなければならない始業式だ。

「今日は始業式の後にHRをして昼前には終わりだ。毎回同じだから分かるだろう。
最後に実行委員、連絡事項を頼む」

担任に呼ばれた二人は席を立ち教壇へと向かう。また文化祭の事で何かあるのだろうか。面倒だなぁと思いながらも、実行委員の声に耳を傾ける。

「私達の発表なんですけど、クロージングアクトに決まりました!
C組のダンスパフォーマンスとどちらかってなっていたんだけど、うちに決まったので頑張っていきましょう!」

その言葉に教室中がざわめく。まさかクロージングアクトに決まるなんて、思ってもみなかったからだ。
確かにクロージングアクトはだいたい三年のクラスが行う。でも今年はC組がダンスパフォーマンスをやるから、そっちに決まると思っていたのである。ダンスはテンションが上がりやすいし、そのテンションで後夜祭へとそのまま持って行けるからだ。

「うそでしょ…」

「最悪だ」

隣の二口くんもため息をついている通り、本当に最悪なのだ。
私達は二日目の一般公開の日のステージ発表の一覧の中に組み込まれるとばかり思っていた。そうすれば全校生徒が見るわけではないし、そんなに観客も多くはならないだろう。クラスの出し物や部活の出し物も同時に行っているのだから、だいぶそちらに流れる。でもクロージングアクトは全校生徒が集まる、文化祭の閉会式の中で行うことになる。これは一般も観覧自由だ。そんな大勢の前で私達が発表をするなんて、本当に最悪だ。

「クロージングアクトを任せられるなんて凄いことだぞ。頑張れよ」

そんな担任の呑気な声に怒りさえもわいてきた。先生は何もしないからそんな事が言えるんだ!担任に向かってそう言ってやりたいくらいだ。
確かにクロージングアクトを務めるということは、それだけ期待されているわけだし光栄なことかもしれない。でも私には責任が重すぎる。白雪姫の私は、絶対に失敗はできないのだから。

「わたし、むりだ」

「俺たち運悪すぎだろ」

「白雪姫と王子様?責任重大だよ」

「うっわ、面倒くせぇな」

興奮気味なクラスの皆を尻目に、私達二人の周りはどんよりとしていた。そりゃあそうだ。私達、主役二人に今まで以上の重圧がのしかかってきたのだから。

「でももうやるしかないじゃん?」

「…二口くんなら心配いらないよ。黙ってれば王子様だもん」

「おい、黙ってればってどういうことだ」

ごつん、と二口くんは私の肩辺りをグーで殴ってきた。最近、二口くんが暴力的だ。ちょっと悲しい。

「苗字の白雪姫、俺別に好きだけど。
まぁ、がんばろーぜ」

そんなこと言われたら、頑張るしかないじゃん。ばか。
二口くんのその言葉に私はただただ顔を赤くするしかなかった。私は悔しいけれど、随分前からそんな彼にやられてしまっているのである。