「リリーだ!」
一緒に歩いていたジェームズが嬉しそうにそう叫んだ。隣のシリウスと一緒に彼を見る。そんなジェームズの視線の先にはセブルスと一緒に歩くリリーの姿がある。彼女もその声に気がついたのか、少し顔を歪めた。
「ねぇ、名前。リリーの隣にいるのは誰だい?ずっと気になっていたんだよね」
スリザリンのネクタイをしているセブルスを、ジェームズは嫌そうな表情で見る。もう、嫌いというオーラがただ漏れだ。これはまずいかもしれない。
「…リリーの幼馴染の、セブルス・スネイプだよ」
「幼馴染だって!?」
「スリザリンかよ」
「うん、スリザリンのくせにね。
しかもあいつは、よくリリーと一緒にいる」
シリウスはスリザリンというだけで嫌いなのだから、困ったものである。私がスリザリンに入ったら、もう話しかけてもらえなかったかも。ちょっと、いやかなり寂しい。
「名前!」
私にも気がついたリリーはセブルスと一緒にこちらへとやってくる。それは嬉しい、嬉しいのだけれど、これはちょっと、いやかなりまずいかもしれない。
「これからセブルスと一緒に図書館へ行くの。
名前も行かない?」
「え、あ…」
「やぁリリー!」
私の言葉を遮りながら、ニコリと笑ってそう言うジェームズが怖い。目が笑ってない。
「…私は貴方に用はないわ」
「つれないなぁ。僕と一緒に散歩にでも行こうか!
そんな陰険スリザリンとじゃなくてね!」
セブルスだってグリフィンドールが大嫌いだ。ただでさえ煩いジェームズを毛嫌いしているのに、こんな事を言われたらもう。眉間の皺がさらに濃くなっている。
「セブルスを悪く言わないでちょうだい」
「君にスリザリンは似合わないよ。
何でそんな奴と仲良くするんだ!」
「…行きましょう、セブルス」
あんなに怒っている様子のリリーは初めて見る。いつもジェームズ達を迷惑そうに扱ってはいたが、怒ってはいなかった。自分の大切な幼馴染をあんな風に言われて何も思わないわけがない。
「…リリー」
「名前、またあとでね」
少しだけ笑ったリリーはそのまま私達に背中を向けてしまう。セブルスは一瞬だけ私を一瞥するとリリーと一緒に行ってしまった。
「あいつ、気に食わないね」
そんなジェームズの呟きに私はため息しか出なかった。
それからのリリーはさらにジェームズに冷たくなっていった。最近はよくジェームズがセブルスに構いに行っているらしい。スリザリンが大嫌いなシリウスも一緒に。実際に私はその様子を見たことがないから分からなかった。リリーがよく愚痴を言っているのだが、まだ悪戯という悪戯はしていないらしくどうもいつも口喧嘩になるとか。魔法などを使ったりするのも時間の問題だろう。
「あ、わすれてた!」
ふと今さっき届いたレギュラスからの手紙を読んでいるときに、明日がハロウィンという事を思い出した。これはもちろんレギュラスの手紙のお陰だ。ついでにその手紙の最後には嬉しい一文が添えてある。
部屋の窓を控えめにコンコンと叩く音が聞こえ、慌てて駆け寄り窓を開ける。そこには白く上品な梟がいた。これはブラック家の梟で間違いない。大きな包みとともに、ハッピーハロウィンというメッセージカード。最後にR.A.Bという文字。時間はいつの間にか0時を回りもう今日は10月31日。ハロウィンだ。
「…レギュラス」
茶色い籠に緑のリボン。その中には色とりどりのお菓子が入っている。思わず零れる笑みに、レギュラスからの手紙をギュッと抱きしめる。
「君も、ありがとうね。長旅お疲れさま」
机の上にあった梟フーズを呼び寄せて、その子の口元に持っていく。嬉しそうにそれを咀嚼すると、一つホーと鳴いてからまた暗い夜空へ飛び立って行った。
レギュラスはとても気が利く。一年生はホグズミードには行けないから、お菓子を貰える手段はフクロウ便で届けて貰うか、厨房で作るかだろう。以前ハロウィンだと忘れていて、シリウスには散々な目にあった。悪戯好きな彼だ。それに今年はジェームズもいる。危なかったと、そっと息をついた。これで安心して眠れる。あとでレギュラスにお礼を言わなくちゃ。
「名前!トリックオアトリート!」
案の定、次の日の朝談話室へ下りるとそこにはジェームズとシリウスが待ち構えていた。その二人にお菓子を渡せば、たちまち二人はつまらなそうな顔をする。
「はい、ドーゾ!」
「ちぇっ、なんだよまた忘れてるかと思ってたのに」
「残念でしたー。もう引っかからないからね!」
周りを見渡すと髪の毛が変な色になっていたり可笑しな耳や尻尾がついていたりと、早速二人のの被害にあったであろう生徒達がたくさんいた。私もまたこうならなくてよかったと心底安心する。隣のリリーはジェームズに強請られて、嫌々ながらもキャンディをあげていた。嬉しそうにはしゃぐジェームズに私達は呆れるばかりだ。
「これから僕達すごいことをするからね!楽しみにしてて!」
「貴方、また変なことをするんじゃないでしょうね!?」
「きっとリリーも喜ぶよ!
「ふざけないでちょうだい!」
心なしかジェームズ以外のほかの三人も楽しそうだ。シリウスはニヤニヤと笑っているし、リーマスとピーターもいつもよりウキウキしている。
「何かやるの?」
「お前も楽しみにしとけよ」
「わー、期待させますね」
「あんまり期待しすぎないでね。でも成功すればすごいから」
「リーマスがそう言うなら楽しみね!」
何か準備があるらしい四人とは途中で別れてそのままリリーと一緒に大広間へ向かった。その間彼女は少し怒っていて、相変わらずジェームズ達の愚痴を零す。
「何をする気なのかしらあの人達は!」
「何だろう?ちょっと楽しみ」
「もうっ、名前まで!」
それから授業以外で彼らを見かける事はあまりなかった。授業中も影に隠れて何かをやっていたり、準備に忙しいようだ。それが起こったのは夕食の大広間での出来事だった。大きな爆発音とともにあちこちから綺麗な色の煙や飾りが降ってくる。入り口から入った四人は箒に乗りながら優雅に大広間を舞う。大広間中が響めく中、拡張呪文を使ったであろうジェームズの大きな声が大広間に響き渡った。
「Ladies and gentlemen!
皆々様!お待たせ致しました!
今宵はハロウィン。皆様に特別なプレゼントを差し上げましょう」
その声と共にたくさんの花火が打ち上がる。空からは色とりどりのキャンディ。生徒達は楽しそうにそれを掴んでいった。教師陣は呆れながらも、やはりパーティということで微笑ましく見守っている。私の掌に落ちたのは緑色のキャンディだった。
「ジェームズ・ポッター、シリウス・ブラック、リーマス・ルーピン、ピーター・ペティグリュー、この四人、以後お見知り置きを!
以上!悪戯仕掛け人でした!」
大広間が大歓声に包まれる中、ここでかの有名な悪戯仕掛け人が誕生した。リリーは呆れたようにため息をついているけれど、私はなんだか楽しくて皆と同じように彼らに拍手を送る。
ここから悪戯仕掛け人が始動する。達が悪いけれど、ちょっとだけ楽しみだ。