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それはまだ暑い初秋、新学期が始まって少し立った頃。私達の出会いはとても単純なものだった。

「すみませんー、怪我しちゃって…」

たまたまその日、私が保健委員の当番だっただけ。養護教諭が職員会議に出ている放課後のほんの数時間。私は誰もいない保健室で、当番として座っていた。

「あ、ここにどうぞ」

足を少し引きずりながら保健室に入ってきたのは、優しそうな顔をした泣き黒子が妙に色っぽい男子生徒だった。恐らく同じ学年の、何度か見かけたことのある、友達がかっこいいと騒いでいた男の子だ。
私が差し出した簡易的な椅子に、彼はお礼を言いながら座った。もう一つ同じような椅子を近くに寄せて、そこに足を乗せるよう彼に伝える。

「今先生が職員会議でいないんです。
私は応急処置くらいしか出来ないけど…先生が来るまで待ちますか?」

「いや、たいしたことないから大丈夫です。
湿布とか貼ってもらえればなって」

「わかりました。ちょっと見ますね」

私には詳しい怪我の具合は分からないし、もちろん治療は出来ない。でもどれくらい腫れているかや、アイシングをしたり、湿布を貼って包帯を巻くくらいなら出来る。差し出された足を見ると、少し赤く腫れていた。

「痛いですか?」

「少しだけ。ちょっと捻っただけなんですけど…」

「たぶんかるい捻挫だと思います。冷やしましたか?」

「スプレーはしました。ちょうど救急箱の湿布が切れちゃってたみたいで」

「ああ、なるほど。それじゃあ湿布を貼っておきますね」

運動部であろう彼の部活にはマネージャーがいないのかとも思ったが、そうではないらしい。ちょうど湿布が切れてしまっているときに怪我をするなんて彼も不運だ。
湿布をハサミで適当な大きさに切ってから、痛くないように、患部である足首に貼り付ける。包帯を丁寧に巻いて湿布が落ちないように固定すれば、私の仕事はもう終わりだ。中々この学校では怪我をする人が多いせいか、初めはぐちゃぐちゃだった包帯の巻き方も今では様になってきた。

「今日は様子をみて、まだ痛むようだったら病院に行ってください」

「はい。ありがとうございました!」

彼は一度頭を下げると保健室を出て行った。始終ニコニコしていた彼の笑顔はとても優しいもので、あの人の人柄がよく分かる。これは女の子にもモテるだろう。

「…すがわら、こうし?」

治療している間、彼に書いてもらった利用者名簿を見ると、とても綺麗な字でそう書かれていた。1年5組。隣のクラスだったのか。同じ進学クラスだ。確かに頭も良さそうだった。
壁に掛けてある白い時計を見ると、だいぶ時間が立っていた。もうそろそろ先生が帰ってくる頃だろう。既に私がここに来てから二時間程が立っている。
湿布や包帯を片付けながら、彼の穏やかな笑顔と優しい声を思い出した。なんだか普通の男子高校生には思えないほど落ち着いている。それが私の、彼への第一印象だった。