「お誕生日おめでとう!!」
手に持っていたクラッカーの紐を、みんなで一斉に勢いよく引っ張る。大きな破裂音と一緒に、カラフルな紙が舞い上がった。少し広がった白い煙が、ツンと鼻につく。部室に入ってきた今日の主役である彼は、ありがとうと嬉しそうに笑った。
「みんなありがとな!」
わらわらと夜久の周りにみんなが集まって、あっという間に小さな彼は見えなくなってしまった。これもみんな身長が大きすぎるせいだ。男の子の中では小さな方かもしれないけど、私からしたら10センチくらい大きいわけだし。気にしてるところがまた可愛かったりする。
「お前は行かねーの?」
「クロこそ」
いつの間にか近くにいた黒尾が、オレンジジュースを渡してくれた。少し酸っぱくて美味しい。やっぱりオレンジジュースは100%に限る。
「あとで行けばいいや」
「私も」
「プレゼントは買ったのか?」
「もちろん!」
私と黒尾と、そして夜久は同じクラスだから、必然的に一緒にいることが多くなる。私は教室では友達といることも多いけど、なんだかんだ言って話しやすい2人とよく一緒にいるのだ。
「クロは渡した?」
「いや、まだ渡せてねぇ」
「一緒に渡そうよ」
黒尾は少しだけ嫌な顔をしてから、私の髪の毛をくしゃっと撫でる。黒尾は人の頭を撫でることが好きだ。髪の毛がぐしゃぐしゃになるから嫌なのに。
「なんだよお前らー?」
黒男と2人で話していると、いつの間にかひょこっと今日の主役である彼が現れた。その顔は本当に嬉しそうで、でもどこか拗ねているようなそんな表情だ。
「夜久ー!お誕生日おめでとう!」
「おめでとうな」
「2人ともサンキュー」
3人で一緒にいると、なんだかいつものメンバーというかんじで安心する。私だけかもしれないけど。
「お前ら酷い。俺のところに全然来ないんだもんなー」
「だって夜久が人気なんだもん」
「じゃあ、そんな人気な夜久にこれをあげましょう〜」
ふざけたようにニヤニヤ笑いながら、黒男は青色の袋を取り出した。私も慌てたように、用意していた赤色の袋を取り出す。
「おっ、待ってましたー!今年はなにかなぁ」
私が今年あげたのは、赤と黒の音駒カラーのミサンガと、シンプルなシルバーのキーホルダー。もちろん猫の形をしている。ミサンガは春高で優勝出来ますようにという願いをかけて。キーホルダーは夜久の身近につけてほしくて。
「お前…っ!!」
まず青色の黒尾のプレゼントから開けた夜久は、さっきまでの笑顔から一変、少し顔を赤くして黒尾を睨みつけた。そんな彼が持っているのは何枚かの写真。写真がプレゼントなんて、一体何が写っているのだろうか。
「なんの写真?」
「ばっ…!お前は見るな!」
「なんでよ!気になるじゃん!」
しかし私がそれを見ることはできなかった。夜久は絶対見せないという風に閉まってしまったし、相変わらず黒尾はニヤニヤしている。なんだか除け者にされた気分だ。2人とも酷い。
「俺は退散しますかー。じゃあな」
ヒラヒラと手を振りながら研磨のところに行ってしまった黒尾の背中を睨みつける。なんだあいつ。わけがわからない。
「なんなのクロのやつ」
「うざい、本当うざい。」
少し怒った様子の夜久は、もういつもの夜久だった。誕生日まで相変わらず変わらない。
「名前のも開けていいか?」
「もちろん!だけど期待はしないでね」
1番期待してた、なんて嬉しそうに笑う夜久に少しドキッとしてしまう。これは不可抗力だ。だって、夜久がそんな風に笑うから。
「おお!」
「ミサンガはね、願掛けしてあるからちゃんと付けてね!」
「まじか。しかも音駒カラーじゃん」
「そうだよー」
早速ミサンガを自分の足に付けてくれたことが嬉しくて。
「このキーホルダーもかっこいいな!」
「でしょ?猫だよ、猫!」
「ありがとな。大切にする」
喜んでくれたことが嬉しい。散々悩んだ甲斐がある。
「名前のプレゼントが1番嬉しい。」
「…ありがとう」
そんなこと、言わないでよ。思わず触ってしまった自分の頬は、思ったよりも熱くて。目の前の彼の顔も、りんごのように赤かった。
そんな私達をみんながニヤニヤと見ていたことを、私は知らない。
Happy birthday ! Morisuke Yaku .