「ねぇ、わかってる?僕も男なんだけど」
あれ、どうしてこうなったんだっけ。久しぶりに仲が良かった同じクラスの、いわゆる同級生だった彼らとたまたま再会して。少しカフェで話をしていたら、なんとなーくお酒でもってことになって。たまたま私の家が近かったから宅飲みだ、なんて流れになったはずだった。
「名前ちゃん料理上手なんだね〜」
「簡単なおつまみだもん」
「でもすっごく美味しいよ!ね、ツッキー!」
山口くんは相変わらず明るくて、笑顔が可愛くて、一緒にいると楽しくなる男の子だった。前と変わらない二人の関係が微笑ましくて。高校を卒業して、二人と会っていなかった空白の二年間を埋めるようにいろんな話をした。
「ツッキーはやっぱり大学でもモテるんだろうな〜」
「だってかっこいいもんね〜」
「もんね〜!」
「ツッキーが照れてるよ山口くん!かわいいね!」
「名前ちゃんうるさい黙って」
蛍くんの毒舌なところも、かっこいい横顔も、名前ちゃんって呼んでくれるその声も、あの頃となんにも変わってなかった。それがなんだか嬉しくて、山口くんとわいわいしながら、お酒がどんどんすすんでいく。
私と蛍くんは、大学進学と同時に東京に上京してきた。同じ大学だけれど学部が違うから校舎が違った。校舎が違うことで、通っている土地も違ってしまった。それにこんな広くて人がたくさんいる東京でバッタリ、なんていう偶然は中々ない。だけど今日は何故か会うことができて、しかも仙台の大学に通う山口くんがたまたま東京に遊びに来ている時に。今年からは三年生になって同じ校舎になるから、蛍くんに会えるかなぁ、なんて思っていた矢先の出来事だった。なんという偶然なんだろうと、感激してしまう。
「それでね、……あれ?山口くん?」
いいかんじに酔いが回ってきたとき、ふとさっきまで楽しく話をしていた山口くんの声が聞こえなくなってしまったことに気が付いた。そんか山口くんは、いつの間にか机に突っ伏して、スヤスヤと可愛らしい寝息を立てていた。
「…蛍くん、山口くん寝ちゃった」
「山口は強くないからね、飲み過ぎだよ」
「蛍くんってお酒強いんだね、いつもと変わらないもん」
わたしと同じ量、いやもしかしたらそれ以上飲んでるかもしれない彼の顔は、あまり赤くなっていなかった。どうやら蛍くんはお酒を飲んでもあまり変わらならしい。
「……そんなことないよ?」
「え?」
ああ、なんだか頭がふわふわする。わたしだってそんなにお酒は強くないのだ。すぐに眠たくなってしまう。ああやばい、寝ちゃいそう、そんなことを思っていたとき、急に視界が反転した。
「…名前ちゃん」
痺れるような色っぽい声が私の名前を呼ぶ。これは夢なのだろうか、現実なのだろうか。見たこともないくらいかっこいい蛍くんが、私を押し倒しているなんて誰が予想しただろうか。
「……け、いくん?」
楽しくお酒を飲んで、昔話に花を咲かせて、ほろ酔い気分でまたね、って。それで終わるはずだった。そう、私の頭の中では。
「簡単に家に男を入れるなんて、相変わらずだね名前チャンは」
そのまま彼は、自分の唇を私の唇にそっと触れさせた。そして何度も何度も、まるで食べてしまうかのように、私の唇にキスを落とす。薄れていく意識の中、その甘さだけが私を支配していた。