「二人とももちろん観に行くだろう!?」
デザートに美味しいプディングを食べていると、朝から興奮した様子のジェームズがキラキラとした目で私達の前に現れた。朝はあまり強くないので、正直うるさいし勘弁してほしい。そうか、今日はいよいよクィディッチの初戦か。グリフィンドールとレイブンクローの試合がある。
「朝から元気だね、ジェームズは」
「今日は待ちに待ったクィディッチだ!気合を入れないとね!」
「クィディッチかぁ」
別にクィディッチは嫌いではない。でも、そんなに熱狂的に好きと言うわけではない。野球やサッカーなどのほうが馴染みが深い分、面白いと思ってしまうのが本音だ。私は箒に乗る事が得意ではないし、良くいって人並み程度だ。
「ああ、早く選手になりたいよ。
一年生はなれないなんて、全く誰が決めたんだか!」
「早く食って競技場行くか。前で観てぇし」
「そうだねシリウス!早く行こう!」
「ええ!二人とも食べるの早いよ…」
「ピーターは無理しないで。ほら、二人とも朝食くらいゆっくり食べなよ」
あっという間に食べ終わった二人を、リリーと一緒に呆れたように見る。そそくさと出て行く彼らは、相当クィディッチにご執心らしい。早く行く気の無いリーマスはゆっくりとトーストを咀嚼していた。ピーターも諦めたようにソーセージを食べている。
「僕達の分の席も二人が取っておいてくれるよ」
「全く朝からうるさいわ」
「二人も一緒に行くだろう?」
「リリーそうする?」
「…しょうがないわね。私も出来るだけ前のほうで観たいし」
「リリーはクィディッチは初めてかい?」
「ええ。楽しみだわ」
「すっごく楽しいんだよ!」
「ピーターもクィディッチが好き?」
「もちろん!僕、箒は得意じゃないけど…」
「私も箒は苦手…」
「名前って勉強とかはよく出来るのに、箒はちょっと…ね?」
「練習すれば上手くなるさ。僕もジェームズ達ほど得意じゃないけど」
姿現しさえ修得してしまえば、もう箒なんて必要ない!そう思ってはいたけれど、やっぱりちょっと、人並みくらいには乗れるように頑張ろうと思う。
シリウスやレギュラスは小さい頃から、上手に箒を使いこなしていた。私はただそれを見ているだけ。あの時少しでもやっていれば!と今更ながらに後悔してしまう。今度ブラック家に行ったら二人に教わろう。
「少し早いけど、もう行く?」
「あ、リリーは先にリーマス達と行ってて!
私、本返すの忘れてたから図書館に行ってから行くね」
「わかったわ」
「じゃあ、僕達は先に行ってるから。
きっと前の方で騒いでるからすぐ分かるよ」
「うん!じゃあ、またあとで」
ゆっくりと朝食を取って、そろそろ競技場へ行こうという時に、返していなかった本の存在を思い出した。そういえば返却期限は今日までだったっけ。クィディッチが終わった後は、もしかしたら図書館へ行くなんてできないかもしれない。まぁそれはグリフィンドールが勝ったらの話だけど。私は三人と一旦別れて図書館へと向かうことにした。
「あ、セブルス」
さっさと本を返却して、少しだけ本を見るために奥へと進んでいくと、奥の方にある入り口からは見えない机に彼が座っていた。セブルスは私の声に気がついたのか、読んでいた本から視線を外し顔を上げる。そのおかげで、長かった前髪で見えなかった顔がよく見える。その顔色は相変わらずあまりよくない。
「クィディッチは観に行かないの?」
「…騒がしいところはあまり好きじゃないんだ」
「そう。それに今日はスリザリンの試合じゃないもんね」
「君は観に行かないのか?」
「これから行く予定だよ。よかったらセブルスも行く?」
「いや、いい」
セブルスの手元にある本は、やはり魔法薬学のものだった。私の視線に気付いた彼は、パタンと読んでいた本を閉じる。
「それ、面白い?」
「ああ。…珍しい薬ばかり載ってる」
「私も今度読んでみようかな」
「…"上級者の魔法薬学"はもう読んだか?あれも中々だったぞ」
「あ、それ今読んでる途中なんだ。教科書には載ってない作り方のコツが載ってて、とっても参考になる」
「教科書よりあっちのほうが正確に早く作れる」
「試したの?」
「何度か」
「私も次の授業で試そうかな」
「そうするといい」
彼は前より、私との会話の言葉数が多くなったような気がする。それはよく薬学の話をするからなのかも知れないけど。
「じゃあ、私はそろそろ行くね。
セブルス、またね」
「ああ」
ヒラヒラと手を振ってみても、セブルスがそれを返してくれるわけがない。でも、少しだけ、彼の口角が上がったようなそんな気がした。それが嬉しくて、思わず緩んでしまう口元を隠しながら、私は皆が待つ競技場へと急いだ。