私は死んだ。身体中に走る衝撃と、何かが壊れる音がその事実を教えてくれた。人の死なんて本当に呆気ない。この先に何が待っているんだろうか、なんて呑気にふわふわとした頭で考えながら。
薄れゆく意識の中、最後に綺麗な一筋の光が見えた気がした。
「名前ちゃん、そろそろ起きましょうね」
だんだんと、朝起きる度に、私の頭の中にたくさんの記憶が流れてくる気がする。そりゃあもう、六歳児にしては多すぎるくらいに。一週間前には、私は一度死んだんだという事故の記憶。三日前には半分くらいの、恐らく前世といわれる物の記憶。そして今日、私ははたぶん、全ての記憶を手にいれてしまったのだ。私を優しく起こしてくれるお母さんは、どことなく私の”前の”母親に似ているし、洗面所の煌びやかな鏡に映る私の顔は、アルバムで見た私の幼い時の姿だった。まさか、私が生まれ変わるなんて。
「今日も遊びに行くの?」
「うん、そのつもりだよ。」
綺麗な色をした絶品のスクランブルエッグに手をつけながら、お母さんからの問いに答える。そもそもこれは何なのだろうか。生まれ変わりにしては、容姿や性格なども前とあまり変わらない。でも環境は全く違う。私は正真正銘、日本で生まれ日本で育ち、18歳という若さで日本で死んだ。日本人のはずだった。容姿は変わらないのだから、もちろん私の顔は日本人の顔をしている。お母さんだって純日本人という顔立ちだ。しかしここは何処だ。ヨーロッパを思わせる綺麗で歴史的な街並み。使われている公用語は、あのクイーンズイングリッシュ。そう間違いない、イギリスだった。なにせ父親が列記としたイギリス人なのだ。しかも由緒代々伝わる古い家系、お金持ちな貴族らしい。
「ヴァルブルガも名前のことをとても気に入っているわ。まるで私の娘、みたいに言うんだもの。」
そういって綺麗に笑った私のお母さんは、前の母親とは顔こそ似ているものの、流れる雰囲気だとか話し方だとか、とにかく全くの別人だった。私の名前は名前・フラール。前世では苗字名前。苗字こそ違うが、名前まで一緒だなんて。神様は一体何がしたいのだろうか。ただの悪戯?しかし悪戯にしては本当にタチが悪い。こんな前世の記憶を丸々引き継いで生まれ変わるなんて。
「じゃあお母さん、行ってくるね。」
「夕方くらいに迎えに行くわ。ヴァルブルガによろしくね。」
暖炉に入り緑の粉を振りまきながら私はこう言った。
「ーーブラック家!」
この所詮、煙突飛行も。今から会いに行く幼馴染の兄弟も。初めに煙突飛行をした時、初めて彼らに会った時、何か引っかかる物があった。前に何かで見た様な、そして読んでいた様なそんな記憶。
此処はどうやら”ハリーポッターの世界”らしい。